大分先だと思っていた修学旅行も、いよいよ明日に迫っていた。
「実家に帰るのか?」
夜、修学旅行の準備をしていると、唐突にアルナがそう言って来た。
華音は手を止め、旅行鞄横にしゃがむピンクの寝間着姿のアルナを見た。
「実家って……ここだけど」
「じゃあ、家出か?」
アルナは小首を傾げた。下ろした金の長髪がサラっと揺れる。
「違う。修学旅行だよ。と言うかさ、アルナ……」
「旅行! アルナも行きたいぞ! アルナも連れてけ!」
華音の言葉を遮り、アルナは楽しそうにベッドに飛び乗って跳ねた。そこにはほわまろも乗っていて、1人と1羽ははしゃぐ。
華音は立ち上がって、右手にほわまろの首根っこを、左手にアルナの首根っこを掴み、床に下ろした。
「あのな。遊びに行くんじゃないんだ。勉強しに行くんだよ。それに、アルナは生徒じゃないじゃないか」
「えー! 勉強はイヤだなー。でも、カノンと離れるのさみしーよー」
アルナは華音の腕を掴んで、潤んだ瞳で見上げた。とても可愛いが、華音にはそんな趣味はない。
主人を泣かせまいと華音を敵視し始めるほわまろの目が何だか猛禽類みたいで恐い。
華音はアルナの頭をポンポン叩いた。
「大丈夫。数日だけだから。ほら、もう自分の部屋に行きなよ」
「アルナ、カノンと寝たいぞっ」
アルナはなかなか華音から離れない。
「だーめ。オレ、明日早いから。アルナも早く寝ろよ」
「もぉ……しょーがないなぁ」
やっと、アルナが離れた。
アルナはほわまろを引き連れ、退室していく。廊下に出、扉を閉じる寸前に隙間から顔を覗かせて手を振った。
「おやすみ、カノン」
「ああ。おやすみ、アルナ」
華音も手を振り返し、作業を再開した。
大きな旅行鞄を肩に掛け、大勢の人の合間を駆けていく。集合時間には余裕で間に合うが、人混みの中を悠長に歩く心の余裕はなかった。
時折人にぶつかりそうになる度に整った顔をほんの僅かに歪め、やっとの事で自分と同じ学生服を着た人集りの所まで辿り着いた。
華音は歩調を緩め、見知った顔ぶれのもとへと向かう。
鏡国高校2学年の生徒と教員の集合場所へ指定されていたのは都内の空港の出発ロビー、つまり時計台が目印の此処である。
「よお、鏡崎。高木と風間はまだ来てないぜ」
ニヤリと笑うのは同じ班の宮本で、仲良し品川もちゃんと隣に居た。
周りは見知った顔が沢山見受けられるが、今話に出た親友2人と桜花の姿がまだなかった。
華音は時計台を見上げ、時刻を確認。まだ30分以上はある。
宮本と品川がスマートフォンを取り出してソーシャルゲームを始めたのを横目に、華音は横へずらりと並ぶ椅子の一番端に腰掛けた。
スマートフォンでお気に入りの電子書籍版文学小説に夢中になっていると、真上から2つの声が降って来た。
「おはよ、華音」
「おっす」
液晶画面から目を離し、頭上を見上げると刃の憎たらしい笑顔と雷の爽やかな笑顔があった。
「あ、おはよう」
華音が挨拶を返すと、2人は華音の真後ろの席に座って前の椅子の背凭れに両肘を置いて話し始める。一気に華音の周囲は賑やかになった。
そのうちに、どんどん生徒達は集まってざわつきも増していく。そんな喧騒の中、やけにハッキリと聞こえるのは1人分の足音。慌てた様子で此方へ駆けて来る。
華音は斜め後ろに首を捻り、人にぶつかっては謝る少女の姿を捉えた。
赤茶色の緩いウェーブの長髪に、ぱっちりとした栗色の瞳、1枚のカッターシャツ姿故によく目立つ豊満な胸、膝上プリーツスカートからスラリと伸びる細長い両足……人混みの中でも決して沈まぬ美しい容姿の彼女は華音が今最も目が離せない女の子、桜花である。
桜花は椅子に腰掛ける華音には気付かず、真っ先に女子グループに満面の笑みで飛び込んだ。片手にはお菓子の袋が握られている。
「おはよー桜花ちゃん。なぁに? それ」
柄本がお下げを揺らし、首を傾けて桜花の手元を眺めた。
他の女子も同じ様に桜花の手元を気にしている。
桜花は皆の視線を受け取り、自信満々にお菓子の袋を掲げた。
「じゃ――ん! ミートボール味のキャンディよ!」
「ミ、ミートボール……」
「え、飴?」
「大丈夫なの、それ」
当然、どよめきが巻き起こる。
周りに居る者や刃、雷も桜花の方を気にし始めるが、反対に華音は一気に興味をなくし視線をスマートフォンに落とした。
桜花は周りの不穏な空気にまるで気付かず、得意げにお菓子の封を開けて小分けの袋を友人達に配った。
透明な袋に包まれたそれはまさにミートボール。南極に置き去りにでもしたらこうなるだろうという硬さを持ち合わせていた。
柄本達が不思議そうに眺めていると、桜花は他の視線を隈無くキャッチし、彼らの手に謎のキャンディを握らせた。その時の笑顔があまりに可愛くて、男子は鼻の下を伸ばし、女子は頬を緩め、キャンディの味などどうでもよくなった。
一通りキャンディ配りを終えた桜花は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「華音、何処かしら……――――あ!」
目的の人物は、椅子に腰掛けてスマートフォンを弄っていた。
華音はギクリとし、刃と雷は此方へ向かって来る桜花に手を挙げた。
華音としては桜花は大歓迎だが、手に持っている物は全力で拒否したかった。
桜花は華音のすぐ傍まで来たところで自身の足に足を引っ掛けて転び、そのまま華音の膝の上にダイブした。
刃と雷は同時に「おお……」と呟き、後方の女子達からは「桜花ちゃん、大胆」と言った声が聞こえて来た。
「お、桜花……」
「いたた……。あ。おはよ、華音。これなんだけど」
桜花は首を捻って困惑気味の華音の顔を見上げ、照れ笑いを浮かべながら袋をまるごと差し出した。
「おはよう……ありがとう」
華音は袋から1つキャンディを取り出し、ぎこちなく笑い返した。
「すっごくミートボールだから驚くわよ」
「うん。それで、いつまでこの状態なのかな?」
膝から伝わる女の子特有の柔らかな感触に、さすがに平静が保てなくなる。
華音の戸惑いと周りの好奇の視線に気付いた桜花は、顔を真っ赤にして慌てて上体を起こした後、流れる様に床の上に正座した。
「ご、ごごごめんなさいっ」
更に、周りのざわつきが増した。鏡国高校の関係者でない一般の通行人までもが足を止めて野次馬化していた。
華音はギャラリーの多さに戸惑い、立ち上がって桜花の前で屈んだ。
「もういいから! と、取り敢えず立とうか」
「うん」
桜花が立ち上がり一段落つくと、人集りは散っていった。入れ違いに、刃と雷がニヤニヤしながらやって来た。
「華音、満更でもなかったんじゃね?」
「見事としか言い様のない転び方だったな」
華音はニヤケ顔の金髪の方を肘で弾き飛ばし、雷に苦笑した。
「オレも……まさかそう来るとは思ってなかった」
「ねーねー! 高木くんと風間くんもどーぞ! ミートボールキャンディだよっ」
桜花が華音を押し退け、刃と雷に皆に配った物を1つずつ手渡した。
2人は桜花の可愛い笑顔と声に癒されつつも、手に乗せられた物を見て眉根を寄せた。
「わたしが今まで食べたどんなキャンディよりも、とっても美味しいから! それじゃあ、柄もっちゃん達が待ってるから行くね」
桜花は3人に手を振り、颯爽と去っていった。途中で転びそうになったのを近くに居た男子に受け止められ、照れ笑いしながらまた走っていった。
刃と雷の視線は、まだ手元の物に向いていた。眉根も寄ったままだ。
言葉にせずとも言いたい事は、それを配られた者の中で一致していた。
これ、本当に美味しいの? ――――と。
刃と雷は制服のポケットに桜花からの不審な贈り物を収納し、華音だけは自分の制服ではなく刃の制服のポケットに自然な動作で滑り込ませた。
「おい、華音……」
「…………桜花の味覚はヤバイ。こんなの口に入れたら1日は寝込む事になる」
「待て待て。お前、桜花ちゃん好きなんだろ。だったら、あの娘の好きなもんも好きになんねーと」
“好き”と言うところは声を潜めてくれた。
華音は柄本達と楽しげに会話する桜花を一瞥し、首を静かに横へ振った。
「それとこれとは話は別だよ」
「いや、でもよ。キスする時、ミートボール味かもしれねーじゃん?」
「ちょっと! そ、そこまで進んでないから! 考えが飛躍しすぎ!」
華音は頬を紅潮させ、刃の緩く垂らしたネクタイを握り締めた。
「んー。だって、好きの次の段階なんだから、別に飛躍しすぎでもねーと思うけど? てか、華音ピュアッピュアッだな!」
「うるさい!」
華音がそのまま持ったネクタイを思いっきり引っ張り、刃は前のめりになる。
雷はいつも通りの傍観者だ。事が大きくなったら止めるかと思っているところへ、宮本と品川が呼びに来た。
「点呼とるってさ」
宮本の言葉で、華音と刃は争い(傍から見ればじゃれあい)を止めて、既に歩き出していた雷、宮本、品川に続いた。
向こうではクラス毎に、担任教師による点呼が開始していた。お馴染みの教師達に混ざり、新任の養護教諭の三田先生も一緒だった。
華音は一瞬三田先生の視線を感じたがすぐに三田先生が隣の教師と話し始めた為、気のせいだったかと思い、急いでクラスメイト達の中に混じった。
「実家に帰るのか?」
夜、修学旅行の準備をしていると、唐突にアルナがそう言って来た。
華音は手を止め、旅行鞄横にしゃがむピンクの寝間着姿のアルナを見た。
「実家って……ここだけど」
「じゃあ、家出か?」
アルナは小首を傾げた。下ろした金の長髪がサラっと揺れる。
「違う。修学旅行だよ。と言うかさ、アルナ……」
「旅行! アルナも行きたいぞ! アルナも連れてけ!」
華音の言葉を遮り、アルナは楽しそうにベッドに飛び乗って跳ねた。そこにはほわまろも乗っていて、1人と1羽ははしゃぐ。
華音は立ち上がって、右手にほわまろの首根っこを、左手にアルナの首根っこを掴み、床に下ろした。
「あのな。遊びに行くんじゃないんだ。勉強しに行くんだよ。それに、アルナは生徒じゃないじゃないか」
「えー! 勉強はイヤだなー。でも、カノンと離れるのさみしーよー」
アルナは華音の腕を掴んで、潤んだ瞳で見上げた。とても可愛いが、華音にはそんな趣味はない。
主人を泣かせまいと華音を敵視し始めるほわまろの目が何だか猛禽類みたいで恐い。
華音はアルナの頭をポンポン叩いた。
「大丈夫。数日だけだから。ほら、もう自分の部屋に行きなよ」
「アルナ、カノンと寝たいぞっ」
アルナはなかなか華音から離れない。
「だーめ。オレ、明日早いから。アルナも早く寝ろよ」
「もぉ……しょーがないなぁ」
やっと、アルナが離れた。
アルナはほわまろを引き連れ、退室していく。廊下に出、扉を閉じる寸前に隙間から顔を覗かせて手を振った。
「おやすみ、カノン」
「ああ。おやすみ、アルナ」
華音も手を振り返し、作業を再開した。
大きな旅行鞄を肩に掛け、大勢の人の合間を駆けていく。集合時間には余裕で間に合うが、人混みの中を悠長に歩く心の余裕はなかった。
時折人にぶつかりそうになる度に整った顔をほんの僅かに歪め、やっとの事で自分と同じ学生服を着た人集りの所まで辿り着いた。
華音は歩調を緩め、見知った顔ぶれのもとへと向かう。
鏡国高校2学年の生徒と教員の集合場所へ指定されていたのは都内の空港の出発ロビー、つまり時計台が目印の此処である。
「よお、鏡崎。高木と風間はまだ来てないぜ」
ニヤリと笑うのは同じ班の宮本で、仲良し品川もちゃんと隣に居た。
周りは見知った顔が沢山見受けられるが、今話に出た親友2人と桜花の姿がまだなかった。
華音は時計台を見上げ、時刻を確認。まだ30分以上はある。
宮本と品川がスマートフォンを取り出してソーシャルゲームを始めたのを横目に、華音は横へずらりと並ぶ椅子の一番端に腰掛けた。
スマートフォンでお気に入りの電子書籍版文学小説に夢中になっていると、真上から2つの声が降って来た。
「おはよ、華音」
「おっす」
液晶画面から目を離し、頭上を見上げると刃の憎たらしい笑顔と雷の爽やかな笑顔があった。
「あ、おはよう」
華音が挨拶を返すと、2人は華音の真後ろの席に座って前の椅子の背凭れに両肘を置いて話し始める。一気に華音の周囲は賑やかになった。
そのうちに、どんどん生徒達は集まってざわつきも増していく。そんな喧騒の中、やけにハッキリと聞こえるのは1人分の足音。慌てた様子で此方へ駆けて来る。
華音は斜め後ろに首を捻り、人にぶつかっては謝る少女の姿を捉えた。
赤茶色の緩いウェーブの長髪に、ぱっちりとした栗色の瞳、1枚のカッターシャツ姿故によく目立つ豊満な胸、膝上プリーツスカートからスラリと伸びる細長い両足……人混みの中でも決して沈まぬ美しい容姿の彼女は華音が今最も目が離せない女の子、桜花である。
桜花は椅子に腰掛ける華音には気付かず、真っ先に女子グループに満面の笑みで飛び込んだ。片手にはお菓子の袋が握られている。
「おはよー桜花ちゃん。なぁに? それ」
柄本がお下げを揺らし、首を傾けて桜花の手元を眺めた。
他の女子も同じ様に桜花の手元を気にしている。
桜花は皆の視線を受け取り、自信満々にお菓子の袋を掲げた。
「じゃ――ん! ミートボール味のキャンディよ!」
「ミ、ミートボール……」
「え、飴?」
「大丈夫なの、それ」
当然、どよめきが巻き起こる。
周りに居る者や刃、雷も桜花の方を気にし始めるが、反対に華音は一気に興味をなくし視線をスマートフォンに落とした。
桜花は周りの不穏な空気にまるで気付かず、得意げにお菓子の封を開けて小分けの袋を友人達に配った。
透明な袋に包まれたそれはまさにミートボール。南極に置き去りにでもしたらこうなるだろうという硬さを持ち合わせていた。
柄本達が不思議そうに眺めていると、桜花は他の視線を隈無くキャッチし、彼らの手に謎のキャンディを握らせた。その時の笑顔があまりに可愛くて、男子は鼻の下を伸ばし、女子は頬を緩め、キャンディの味などどうでもよくなった。
一通りキャンディ配りを終えた桜花は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「華音、何処かしら……――――あ!」
目的の人物は、椅子に腰掛けてスマートフォンを弄っていた。
華音はギクリとし、刃と雷は此方へ向かって来る桜花に手を挙げた。
華音としては桜花は大歓迎だが、手に持っている物は全力で拒否したかった。
桜花は華音のすぐ傍まで来たところで自身の足に足を引っ掛けて転び、そのまま華音の膝の上にダイブした。
刃と雷は同時に「おお……」と呟き、後方の女子達からは「桜花ちゃん、大胆」と言った声が聞こえて来た。
「お、桜花……」
「いたた……。あ。おはよ、華音。これなんだけど」
桜花は首を捻って困惑気味の華音の顔を見上げ、照れ笑いを浮かべながら袋をまるごと差し出した。
「おはよう……ありがとう」
華音は袋から1つキャンディを取り出し、ぎこちなく笑い返した。
「すっごくミートボールだから驚くわよ」
「うん。それで、いつまでこの状態なのかな?」
膝から伝わる女の子特有の柔らかな感触に、さすがに平静が保てなくなる。
華音の戸惑いと周りの好奇の視線に気付いた桜花は、顔を真っ赤にして慌てて上体を起こした後、流れる様に床の上に正座した。
「ご、ごごごめんなさいっ」
更に、周りのざわつきが増した。鏡国高校の関係者でない一般の通行人までもが足を止めて野次馬化していた。
華音はギャラリーの多さに戸惑い、立ち上がって桜花の前で屈んだ。
「もういいから! と、取り敢えず立とうか」
「うん」
桜花が立ち上がり一段落つくと、人集りは散っていった。入れ違いに、刃と雷がニヤニヤしながらやって来た。
「華音、満更でもなかったんじゃね?」
「見事としか言い様のない転び方だったな」
華音はニヤケ顔の金髪の方を肘で弾き飛ばし、雷に苦笑した。
「オレも……まさかそう来るとは思ってなかった」
「ねーねー! 高木くんと風間くんもどーぞ! ミートボールキャンディだよっ」
桜花が華音を押し退け、刃と雷に皆に配った物を1つずつ手渡した。
2人は桜花の可愛い笑顔と声に癒されつつも、手に乗せられた物を見て眉根を寄せた。
「わたしが今まで食べたどんなキャンディよりも、とっても美味しいから! それじゃあ、柄もっちゃん達が待ってるから行くね」
桜花は3人に手を振り、颯爽と去っていった。途中で転びそうになったのを近くに居た男子に受け止められ、照れ笑いしながらまた走っていった。
刃と雷の視線は、まだ手元の物に向いていた。眉根も寄ったままだ。
言葉にせずとも言いたい事は、それを配られた者の中で一致していた。
これ、本当に美味しいの? ――――と。
刃と雷は制服のポケットに桜花からの不審な贈り物を収納し、華音だけは自分の制服ではなく刃の制服のポケットに自然な動作で滑り込ませた。
「おい、華音……」
「…………桜花の味覚はヤバイ。こんなの口に入れたら1日は寝込む事になる」
「待て待て。お前、桜花ちゃん好きなんだろ。だったら、あの娘の好きなもんも好きになんねーと」
“好き”と言うところは声を潜めてくれた。
華音は柄本達と楽しげに会話する桜花を一瞥し、首を静かに横へ振った。
「それとこれとは話は別だよ」
「いや、でもよ。キスする時、ミートボール味かもしれねーじゃん?」
「ちょっと! そ、そこまで進んでないから! 考えが飛躍しすぎ!」
華音は頬を紅潮させ、刃の緩く垂らしたネクタイを握り締めた。
「んー。だって、好きの次の段階なんだから、別に飛躍しすぎでもねーと思うけど? てか、華音ピュアッピュアッだな!」
「うるさい!」
華音がそのまま持ったネクタイを思いっきり引っ張り、刃は前のめりになる。
雷はいつも通りの傍観者だ。事が大きくなったら止めるかと思っているところへ、宮本と品川が呼びに来た。
「点呼とるってさ」
宮本の言葉で、華音と刃は争い(傍から見ればじゃれあい)を止めて、既に歩き出していた雷、宮本、品川に続いた。
向こうではクラス毎に、担任教師による点呼が開始していた。お馴染みの教師達に混ざり、新任の養護教諭の三田先生も一緒だった。
華音は一瞬三田先生の視線を感じたがすぐに三田先生が隣の教師と話し始めた為、気のせいだったかと思い、急いでクラスメイト達の中に混じった。