鏡国高校の背が高くて立派な校門に、夏服に身を包んだ生徒達が次々と吸い込まれていく。
金の刺繍のイニシャル入りの学年カラーのネクタイと、男子のストライプ柄ズボン、女子のチェック柄スカートは年中同じものを着用するが、純白のシャツは夏用だと半袖になり、袖の折り返し部分に男子はズボン、女子はスカートと同じ色と柄が入る。指定である為、ブレザーを羽織っている者は当然居ないし、長袖の者も本日から居ない。
華音も、私服では絶対に出さない白い両腕を出しての登校だ。
家を出る時、アルナが一緒に行くと言って聞かず随分と困らされた。昨夜「専業主婦になる」って言っていたくせに、華音が学校へ行くと告げた途端にそれだった。
スペクルムには1つの場所へ同年代の者が集って勉学に励む習慣がない為、アルナは平日の殆どの時間華音と離れ離れになってしまうとは思ってもみなかったようだ。
最終的には水戸に説得され、渋々玄関先で華音を送り届けたのだった。
擦れ違う同級生と軽く挨拶を交わしながら校門を潜ると、その先に立って居た白衣を着た女性が笑顔で挨拶をして来た。
自然な茶髪に素っぴんに近い薄化粧、膝丈のタイトスカートから伸びるスラリとしたストッキングを着用した両足、特別美人と言う訳ではないが微笑を浮かべる顔も所作にも気品があった。
反射的に華音は挨拶を返したのだが、頭を下げてから改めて女性の姿を見て首を傾げた。
誰だったっけ? でも、此処に居るって事は教師……。
「おはよー! さっちゃん!」
元気な声が後ろからし、華音が振り返ると、親友の刃が手を大きく振りながら走り寄って来た。
「おはよう、風間くん。ですが、私はさっちゃんではありません。三田です。名前はきちんと呼びましょうね」
さっちゃんこと三田先生は穏やかな笑みを浮かべ、優しく刃を注意した。
刃は三田先生の優しさに頬を緩め、「はぁい」と間延びした返事をした。
華音は三田先生と刃を交互に見、最終的に刃に視線を固定させて口を開いた。
「……刃。えっと、凄く訊き辛いんだけどさ。この先生は誰だっけ」
三田先生に聞こえない様に少し声を潜め、肩も密着させる。
「あぁ……かがみんもおはよー。悪い。さっちゃんの方にしか目いってなかったわ。てか、誰って、さっちゃんはさっちゃんだろ? お前が覚えてないの珍しいな。ほら、先週赴任して来た養護教諭の三田先生だよ。全校集会で紹介されてたろ」
「全校集会……」
華音は先週の記憶を手繰り寄せる。確かに体育館で全校集会があった事は知っている。だが、その時の記憶は華音には存在しない。何故ならば、その場に居なかったから。華音として紛れ込んでいたのは魔術で創り出した水の分身。よほどの事がなければ、偽物だと見破る事の出来ない精巧な創りで、刃もあの時の分身を華音だと思い込んでいたからこそ、今の華音の発言に驚いているのだ。
魔物を倒す為に、抜けたんだよな……。分身と記憶の共有が出来ないのが一番の問題だな。今後、何か対策を考えよう。
「かがみーん? おーい」
気付けば、目の前で刃が手をパタパタと振っていた。
華音は意識を現実へと戻し、何でもない風をして笑った。
「ごめんごめん。そうだったね。三田先生だ。最近暑いからぼんやりしちゃうよね」
「確かに、今日も暑いなぁ」
刃は眩しそうに青空を眺める。
多少の厚い雲は目立つが雨は降りそうもない、心地の良い朝だ。小鳥も優雅に飛び交っている。
「じゃ、教室行こうか」
華音が歩き出し、刃も隣を歩く。
他の生徒と挨拶を交わす三田先生の横を通り過ぎて、重厚な扉に入っていった。
クラスメイト全員と担任教師が揃った教室内に、いつもの私語厳禁の授業風景は存在しなかった。グループ別に机をくっつけ、中央に広げた手製のしおりを前に楽しげに話し合っていた。その様子は休憩時間の様である。
黒板には「修学旅行」と大きく書かれ、教壇に立つ担任教師の寒川先生も生徒達と同じしおりを手にいつもの顰めっ面を置いてきていた。
グループ分けの次は班長と副班長決め。今の時間はその為に設けられていた。
クラスは男子20人、女子20人で、グループは男女別の5組4グループに分けられていた。
華音は刃と高木雷に加え、仲良し2人組の宮本と品川と同じグループだ。
現在、華音の意見に宮本と品川が講義している最中だった。
「鏡崎、コイツに班長やらせるなんて正気か!?」
「副班長はまあ……いいとして。班長ヤバイだろ! 俺達、沖縄で遭難するぞ」
2人が不満なのも無理はない。副班長は雷、そして班長は刃なのだから。
「おいおい。そこまで言われると、俺ショックー。せっかく華音ちゃんが指名してくれたのに」
刃は唇を尖らせて見せたが、言葉程の不満さは感じられなかった。
「鏡崎……。俺もそれは不安だ。この中で一番しっかりしてるのはお前だと思うんだけどなー」と、雷は苦笑する。
華音はしおりをパラパラ捲りながら、落ち着いた様子で答えた。
「案外こう言う奴の方が上手くいくんだよ。遭難って言っても、そんなに別行動の時間ないし。まとめ役は明るくて元気で、多少アホな方が楽しいだろ」
そうさらさらと言葉が出るが、本音は華音自身が自由で居たいからだった。優等生と言う肩書きを持つ彼でも、まとめるのが得意な訳ではない。どちらかと言えば、独りで静かに行動していたいタイプだ。
それに、一番の理由はもし魔物が現れた時、班長だと上手く抜け出せない可能性があるからだ。副班長もそう言った意味で不自由な立場なのだ。
それらを総合し、華音は自分が班長及び副班長を務めなくていいよう、最もらしい理由を並べ立てて免れようとしていたのである。
「うーん……そう言われてみればそうかも」
「確かにな」
宮本と品川はまんまと華音の策略にはまり、純粋に信じ込んだ。
1人雷だけは完全に納得とまでいかなかったが、華音との長い付き合いの中でこう言った役目が得意でない事は分かっていたので、仕方ないかと思って事の成り行きを見守るだけにした。
こうして、このグループの班長は刃、副班長は雷に決定した。
全てのグループの話が纏まるまではこの時間は続く為、第一課題をクリアしたグループの者達は各々談笑したりして暇を持て余した。
しおりで修学旅行の概要を確認している華音の耳に、少し離れたところにいる女子グループの弾んだ会話が入ってきた。気にしない……つもりだったのだが。
「へぇ~! 海で泳いでいいんだって。しかも、水着は自由!」
「本当ね。柄もっちゃんは海好きなの?」
初めに聞こえて来たのはいつもおさげの小柄な少女柄本で、それに答えた可愛いアニメ調の声は赤松桜花だった。
この頃の華音は、無意識に桜花を気にしていた。
「海は好き! でも、私は身体弱いから泳げないけどね。今回もいつもどーり見学かな。あぁ……桜花ちゃん、そんな顔しないで? 全然気にしてないから。貝殻拾いも結構楽しいし、何より皆の水着姿も拝めるし!」
「皆のって……一体何を期待して」
桜花はチラッと、華音を見た。
彼はしおりを眺めていた。長い睫毛が瞳に覆い被さる何処か物憂げな表情に、ドキリとする。周りが「綺麗」や「カッコイイ」と評価するのも頷ける完璧な容姿だ。けれど、桜花だけは彼の本当の顔を知っていた。
華音も絶対水着なんて着られないわよね。……わたしも貝殻拾い、かな。
その上で、華音を独りにしたくないと桜花は思った。
桜花が華音の事を考えているうちに、同じグループの女子は柄本を中心に水着について盛り上がっていた。自然な流れで、桜花も話に入れられる。
「あたし、買ったばかりの白いビキニ着る予定だけど、桜花ちゃんはどうするの? 勿論、水着着るよね」
ほんのり肌の焼けた健康的な印象の藤堂が、何処か悪戯な笑みを浮かべていた。
「えっ。わ、わたしは……柄もっちゃんと一緒で見学」
「見学って! 桜花ちゃん、もしかして泳げないとか?」
今度は、少しふくよかな体格の佐野が話に割り込んできた。
「泳げなくもないけれど、えっと……か、じゃなくて、柄もっちゃんが独りになっちゃうから」
ドギマギして、つい早口になる桜花。
別の名前を言いかけたところを、勘の鋭い女子達は聞き逃さなかった。しかし、敢えて掘り下げる者はおらず、代わりに柄本がとんでもない事を言い出した。
「私は平気だってば。優しいね、桜花ちゃん。ところで、バストサイズいくつよ?」
「え? いきなり、何。Gカップだけど……」
少しの戸惑いを見せつつも、恥じらう様子もなく桜花は答えた。
衝撃の事実を知り、柄本達は口元を覆って感嘆の声を上げた。桜花は彼女達の反応がよく分からなかった。
「Gカップだってよ、華音ちゃん」
女子達の何気ない会話は、男子達の耳にもしっかりと届いていた。
刃が悪戯な笑みで、華音を肘で突っついた。
宮本と品川は顔を真っ赤にし年頃らしい初々しい表情のまま固まっていて、雷は腕を組んで目を閉じて心臓が高鳴るのを耐えていた。
いつの間にか、筆箱から取り出したコウテイペンギン型の消しゴムをいじっていた華音の指先がピタリと止まった。
「……刃。何でそれをわざわざオレに伝えるんだよ」
「ん? あれ? もしかして知ってた? 付き合ってるも」
「付き合ってない」
華音は消しゴムを指で弾き、上手い事刃のアホ面に命中させた。
刃は眉間を押さえ、涙目で華音の顔をしっかり見た。
確かに嘘を言っている人の目ではない。
「そっかー。じゃあ、知らなかったんだ。結構あると思っていたけど、それほどまでだったとは驚きだねぇ。アニメフェイスにアニメボイス……マジ萌えるぜ、桜花ちゃん」
刃が変質者の様な下品な笑みを浮かべ始め、華音は丸めたしおりでその金髪頭を思いっきり叩いた。ポカっと、間抜けな音がざわめきの中を通り抜けた。
華音はしおりを綺麗な状態に戻しつつ、桜花をちらりと見た。と、桜花も華音の方を見ていて、目が合いそうになったところでお互いに逸らした。
華音は俯き、ペンギン消しゴムを指で突っつく。その顔はほんのりと赤かった。
金の刺繍のイニシャル入りの学年カラーのネクタイと、男子のストライプ柄ズボン、女子のチェック柄スカートは年中同じものを着用するが、純白のシャツは夏用だと半袖になり、袖の折り返し部分に男子はズボン、女子はスカートと同じ色と柄が入る。指定である為、ブレザーを羽織っている者は当然居ないし、長袖の者も本日から居ない。
華音も、私服では絶対に出さない白い両腕を出しての登校だ。
家を出る時、アルナが一緒に行くと言って聞かず随分と困らされた。昨夜「専業主婦になる」って言っていたくせに、華音が学校へ行くと告げた途端にそれだった。
スペクルムには1つの場所へ同年代の者が集って勉学に励む習慣がない為、アルナは平日の殆どの時間華音と離れ離れになってしまうとは思ってもみなかったようだ。
最終的には水戸に説得され、渋々玄関先で華音を送り届けたのだった。
擦れ違う同級生と軽く挨拶を交わしながら校門を潜ると、その先に立って居た白衣を着た女性が笑顔で挨拶をして来た。
自然な茶髪に素っぴんに近い薄化粧、膝丈のタイトスカートから伸びるスラリとしたストッキングを着用した両足、特別美人と言う訳ではないが微笑を浮かべる顔も所作にも気品があった。
反射的に華音は挨拶を返したのだが、頭を下げてから改めて女性の姿を見て首を傾げた。
誰だったっけ? でも、此処に居るって事は教師……。
「おはよー! さっちゃん!」
元気な声が後ろからし、華音が振り返ると、親友の刃が手を大きく振りながら走り寄って来た。
「おはよう、風間くん。ですが、私はさっちゃんではありません。三田です。名前はきちんと呼びましょうね」
さっちゃんこと三田先生は穏やかな笑みを浮かべ、優しく刃を注意した。
刃は三田先生の優しさに頬を緩め、「はぁい」と間延びした返事をした。
華音は三田先生と刃を交互に見、最終的に刃に視線を固定させて口を開いた。
「……刃。えっと、凄く訊き辛いんだけどさ。この先生は誰だっけ」
三田先生に聞こえない様に少し声を潜め、肩も密着させる。
「あぁ……かがみんもおはよー。悪い。さっちゃんの方にしか目いってなかったわ。てか、誰って、さっちゃんはさっちゃんだろ? お前が覚えてないの珍しいな。ほら、先週赴任して来た養護教諭の三田先生だよ。全校集会で紹介されてたろ」
「全校集会……」
華音は先週の記憶を手繰り寄せる。確かに体育館で全校集会があった事は知っている。だが、その時の記憶は華音には存在しない。何故ならば、その場に居なかったから。華音として紛れ込んでいたのは魔術で創り出した水の分身。よほどの事がなければ、偽物だと見破る事の出来ない精巧な創りで、刃もあの時の分身を華音だと思い込んでいたからこそ、今の華音の発言に驚いているのだ。
魔物を倒す為に、抜けたんだよな……。分身と記憶の共有が出来ないのが一番の問題だな。今後、何か対策を考えよう。
「かがみーん? おーい」
気付けば、目の前で刃が手をパタパタと振っていた。
華音は意識を現実へと戻し、何でもない風をして笑った。
「ごめんごめん。そうだったね。三田先生だ。最近暑いからぼんやりしちゃうよね」
「確かに、今日も暑いなぁ」
刃は眩しそうに青空を眺める。
多少の厚い雲は目立つが雨は降りそうもない、心地の良い朝だ。小鳥も優雅に飛び交っている。
「じゃ、教室行こうか」
華音が歩き出し、刃も隣を歩く。
他の生徒と挨拶を交わす三田先生の横を通り過ぎて、重厚な扉に入っていった。
クラスメイト全員と担任教師が揃った教室内に、いつもの私語厳禁の授業風景は存在しなかった。グループ別に机をくっつけ、中央に広げた手製のしおりを前に楽しげに話し合っていた。その様子は休憩時間の様である。
黒板には「修学旅行」と大きく書かれ、教壇に立つ担任教師の寒川先生も生徒達と同じしおりを手にいつもの顰めっ面を置いてきていた。
グループ分けの次は班長と副班長決め。今の時間はその為に設けられていた。
クラスは男子20人、女子20人で、グループは男女別の5組4グループに分けられていた。
華音は刃と高木雷に加え、仲良し2人組の宮本と品川と同じグループだ。
現在、華音の意見に宮本と品川が講義している最中だった。
「鏡崎、コイツに班長やらせるなんて正気か!?」
「副班長はまあ……いいとして。班長ヤバイだろ! 俺達、沖縄で遭難するぞ」
2人が不満なのも無理はない。副班長は雷、そして班長は刃なのだから。
「おいおい。そこまで言われると、俺ショックー。せっかく華音ちゃんが指名してくれたのに」
刃は唇を尖らせて見せたが、言葉程の不満さは感じられなかった。
「鏡崎……。俺もそれは不安だ。この中で一番しっかりしてるのはお前だと思うんだけどなー」と、雷は苦笑する。
華音はしおりをパラパラ捲りながら、落ち着いた様子で答えた。
「案外こう言う奴の方が上手くいくんだよ。遭難って言っても、そんなに別行動の時間ないし。まとめ役は明るくて元気で、多少アホな方が楽しいだろ」
そうさらさらと言葉が出るが、本音は華音自身が自由で居たいからだった。優等生と言う肩書きを持つ彼でも、まとめるのが得意な訳ではない。どちらかと言えば、独りで静かに行動していたいタイプだ。
それに、一番の理由はもし魔物が現れた時、班長だと上手く抜け出せない可能性があるからだ。副班長もそう言った意味で不自由な立場なのだ。
それらを総合し、華音は自分が班長及び副班長を務めなくていいよう、最もらしい理由を並べ立てて免れようとしていたのである。
「うーん……そう言われてみればそうかも」
「確かにな」
宮本と品川はまんまと華音の策略にはまり、純粋に信じ込んだ。
1人雷だけは完全に納得とまでいかなかったが、華音との長い付き合いの中でこう言った役目が得意でない事は分かっていたので、仕方ないかと思って事の成り行きを見守るだけにした。
こうして、このグループの班長は刃、副班長は雷に決定した。
全てのグループの話が纏まるまではこの時間は続く為、第一課題をクリアしたグループの者達は各々談笑したりして暇を持て余した。
しおりで修学旅行の概要を確認している華音の耳に、少し離れたところにいる女子グループの弾んだ会話が入ってきた。気にしない……つもりだったのだが。
「へぇ~! 海で泳いでいいんだって。しかも、水着は自由!」
「本当ね。柄もっちゃんは海好きなの?」
初めに聞こえて来たのはいつもおさげの小柄な少女柄本で、それに答えた可愛いアニメ調の声は赤松桜花だった。
この頃の華音は、無意識に桜花を気にしていた。
「海は好き! でも、私は身体弱いから泳げないけどね。今回もいつもどーり見学かな。あぁ……桜花ちゃん、そんな顔しないで? 全然気にしてないから。貝殻拾いも結構楽しいし、何より皆の水着姿も拝めるし!」
「皆のって……一体何を期待して」
桜花はチラッと、華音を見た。
彼はしおりを眺めていた。長い睫毛が瞳に覆い被さる何処か物憂げな表情に、ドキリとする。周りが「綺麗」や「カッコイイ」と評価するのも頷ける完璧な容姿だ。けれど、桜花だけは彼の本当の顔を知っていた。
華音も絶対水着なんて着られないわよね。……わたしも貝殻拾い、かな。
その上で、華音を独りにしたくないと桜花は思った。
桜花が華音の事を考えているうちに、同じグループの女子は柄本を中心に水着について盛り上がっていた。自然な流れで、桜花も話に入れられる。
「あたし、買ったばかりの白いビキニ着る予定だけど、桜花ちゃんはどうするの? 勿論、水着着るよね」
ほんのり肌の焼けた健康的な印象の藤堂が、何処か悪戯な笑みを浮かべていた。
「えっ。わ、わたしは……柄もっちゃんと一緒で見学」
「見学って! 桜花ちゃん、もしかして泳げないとか?」
今度は、少しふくよかな体格の佐野が話に割り込んできた。
「泳げなくもないけれど、えっと……か、じゃなくて、柄もっちゃんが独りになっちゃうから」
ドギマギして、つい早口になる桜花。
別の名前を言いかけたところを、勘の鋭い女子達は聞き逃さなかった。しかし、敢えて掘り下げる者はおらず、代わりに柄本がとんでもない事を言い出した。
「私は平気だってば。優しいね、桜花ちゃん。ところで、バストサイズいくつよ?」
「え? いきなり、何。Gカップだけど……」
少しの戸惑いを見せつつも、恥じらう様子もなく桜花は答えた。
衝撃の事実を知り、柄本達は口元を覆って感嘆の声を上げた。桜花は彼女達の反応がよく分からなかった。
「Gカップだってよ、華音ちゃん」
女子達の何気ない会話は、男子達の耳にもしっかりと届いていた。
刃が悪戯な笑みで、華音を肘で突っついた。
宮本と品川は顔を真っ赤にし年頃らしい初々しい表情のまま固まっていて、雷は腕を組んで目を閉じて心臓が高鳴るのを耐えていた。
いつの間にか、筆箱から取り出したコウテイペンギン型の消しゴムをいじっていた華音の指先がピタリと止まった。
「……刃。何でそれをわざわざオレに伝えるんだよ」
「ん? あれ? もしかして知ってた? 付き合ってるも」
「付き合ってない」
華音は消しゴムを指で弾き、上手い事刃のアホ面に命中させた。
刃は眉間を押さえ、涙目で華音の顔をしっかり見た。
確かに嘘を言っている人の目ではない。
「そっかー。じゃあ、知らなかったんだ。結構あると思っていたけど、それほどまでだったとは驚きだねぇ。アニメフェイスにアニメボイス……マジ萌えるぜ、桜花ちゃん」
刃が変質者の様な下品な笑みを浮かべ始め、華音は丸めたしおりでその金髪頭を思いっきり叩いた。ポカっと、間抜けな音がざわめきの中を通り抜けた。
華音はしおりを綺麗な状態に戻しつつ、桜花をちらりと見た。と、桜花も華音の方を見ていて、目が合いそうになったところでお互いに逸らした。
華音は俯き、ペンギン消しゴムを指で突っつく。その顔はほんのりと赤かった。