「それでね。無能なお姉様でも、一族の役に立つ方法があるのよ?」
「えっ?」
「秘術の儀式に、お姉様の力が必要なのよ」
「わ、私? でも私……術なんて……」
「儀式の場に立っているだけで良いのよ。他にはなーんにも、しなくて良いの」

 思いもよらない日葵の発言に、夢璃は目を白黒させている。妹は、姉の反応を愉しむように問いかけた。

「役立たずでも出来る、簡単なお仕事でしょ?」
「それは……」
(確かに簡単なことだけど……)
『怪しいよ! あの顔は何か企んでる顔だ!』

 一族から除け者にされていたために術に疎い夢璃だが、彼女も司の言う通りの怪しさを感じていた。

「お姉様、花園家の役に立ってくれるわよね?」
「……は、はい」
『夢璃!』

 実妹からお姉様の誕生日と言われて、気持ちが浮きだたないわけがない。
 有無を言わさぬ迫力もあって思わず返事をしてしまった夢璃を、司が咎めるがすでに遅かった。

「衣装も用意しておくわね。そんなみすぼらしい着物なんかじゃなくて、お姉様の新たな門出に相応しい清潔な衣装よ」
「あ、ありがとうございます」
「楽しみにしてね」

 日葵が言いたいことを言い終えると、玄関の引き戸を開いて、あばら家を囲む白い椿の生垣を越えた先にある伝統的な日本家屋の家に帰って行く。
 妹の帰る場所は、姉の住む家とは雲泥の差だ。