「きょ、今日は何を……なさりに……?」
(日葵は普段、当主様(お父様)達と一緒にお屋敷にいて、この家まで来ないのに……)

 夢璃が自身の父を父と呼んだ記憶は、数度しかない。
 両親を父・母と呼ぶと、お前のような不出来な存在を生んだ覚えはないと怒鳴られ、夢璃の身体を痛めつけては二度とそう呼ばないように覚えさせたからだ。
 妹だけではなく、両親からも疎まれながら生きている夢璃に、使用人達も必要以上に接近しようとは思わない。

(小さい頃は、愛される日葵のことが羨ましかったけれども。今はもう望んでも叶わないって分かってる……)

 だからこそ、彼女が心から家族だと思える存在は、常にそばで寄り添って話を聞いてくれる金魚の司だけ。

(私には司がいるから、それでいいの。司さえいてくれれば、他には何もいらない。だから、放っておいてほしいのに……)
「お姉様も、そろそろ十八歳。成人でしょう?」
「え?」

 妹から自分の年齢についての話題が出て来るなど思わなかった夢璃は、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。

(もしかして、私のことを気にかけてくれて……)

 成人のお祝いをしてくれるのだろうか。そう思いかけた夢璃だが、日葵の次の言葉に落胆することになる。