「司!」

 光に包まれる瞬間、指先に触れていただけの司が、霊力の余波に流されて遠くへ行ってしまいそうになるのが目に映った。
 霊力の大半を司に注いだことで身体の力が抜けていく感覚を覚える中で、夢璃は目を瞑りながらも何とか身体を動かそうとする。すると……。

「ぼくも、夢璃と一緒に生きたい!」

 二度と聞くことが出来ないと思っていた聞き慣れた声が、夢璃のすぐそばから聞こえてきた。

「ぎゃあああ!!」

 幻聴かと思った直後、夢璃を捕らえていた椿の根が切り裂かれる。同時に、日葵の叫び声も響いた。
 恋焦がれていた声が聞こえてきたことと、何が起きているのか分からない不安感に動揺する中で、支えを失った夢璃は倒れそうになる。
 その寸前に光が収まり、夢璃は何者かに優しく身体を抱きしめられた。

「だから、夢璃が憂う悲しみを、ぼくの衣で覆い隠してあげるんだ……!」

 慣れない温もりに夢璃が硬直していると、今度はハッキリと司の声が聞こえてきた。
 夢璃が恐る恐る目を開けると、透き通るような紅の髪の青年が、皮膚の一部に赤金色の鱗を纏い同色の衣を鮮やかに靡かせ、心配そうに彼女を見つめている。
 人間であれば耳となる部分にはひれがついており、手には水かきがあることから、彼が人化したあやかしであることは明らかだ。
 何より、金魚の面影を残す彼は間違いなく……。

「つ、司なの……?」
「そうだよ」
「死んだんじゃ、なかったの?」
「仮死状態になっていたんだ。心配させてごめんね……泣かせるつもりはなかったんだよ」

 初めて遊び終えた後のように……けれどもその時とは違い、切なく恋焦がれるように。司は金色の瞳を潤ませ、泣かせてしまったことを謝る。

「司が生きてくれていて、良かった……!」
「夢璃がぼくと一緒にいることを強く願って霊力をくれたから、前に進もうと思ってくれたから、だからぼくは人化できたんだ」

 夢璃が司を抱きしめ返す。夢璃の瞳からポロポロと零れていく嬉し涙に、司が優しく唇で触れた。

「ずっと、こうしたかった……。ガラス越しじゃなくて、直接夢璃に触れたかったんだよ」
「……やっと、触れ合えたね」

 人型の司から向けられる親愛の込められた慣れない行為に恥ずかしさを覚えるものの、夢璃は不思議と嫌とは感じずにいる。
 むしろ、嬉しさで心が浮き立つ予感を覚え、微笑んだ。