猫又の妖術で服を乾かしてもらい、彼に見送られた夢璃は、家族に見つからないように司を連れてあばら家に戻った。
 金魚鉢に水を入れて、司を移動させてやると、司は興味深そうにあばら家の観察を始める。

『ここが夢璃のおうち?』
「うん、そうだよ。……他には誰もいないの」
『じゃあ、ぼくと夢璃は、これから一緒に暮らす家族だね!』
「……! うん!」

 家族と言う言葉に、夢璃は満面の笑みを浮かべる。

「霊力をあげるね」

 金魚鉢を前に、夢璃が手をかざす。霊力を送り込むと、金魚鉢で泳いでいた司が淡く光り始めた。

『わあ! すごく澄んだ霊力! 夢璃はすごい力を秘めてるね!』
「そうかな? 家族はみんな、たいしたことないって言うけど……」

 褒め称えようとする司に、夢璃は自信のない様子で呟く。

『ううん、夢璃はすごいよ! 身体がすごく軽くなったし、長生きできそう!』
「そういえば、縁日で見たときよりも光ってるかも?」
『でしょう? 夢璃の霊力が強い証拠だよ』

 夢璃はしばらく、霊力の余韻の光で美しく輝く司の赤金色の鱗に見入っていた。
 気付けば朝になり、家族して迎え入れたばかりの司に体調を心配されたことは、成人を前にした夢璃には懐かしくも大切な記憶のままだ。