持ってきた花火に火を付ける。七色の光を放ち、あたりが煙でいっぱいになった。
心をはしゃぎ立てるのには十分だ。

「綺麗だね」
どちらともなく言う。

涼しくなってきた夜に、澄んだ空気も気分がよかった。
シューシューと音を立てる花火は、まるで夜空の流星群だ。

宇宙に煌めく手に届かない星。それがいま僕の掌握するところにある。
願わくば彼女の病を治して欲しい。手持ち花火にすら願掛けのような気持ちを抱いてしまう。

「花火って蛍のお尻みたい」
クスリと笑った都会育ちのハルカは、その人生で今まで蛍を見たことがあるのだろうか。

「蛍。いつか一緒に見に行こうね」
僕はふと思った。これは欺瞞なのではないかと。

でも、嘘でも答えることにした。
「二人一緒の時間を過ごして、思い出たくさん作って。これからもずっと一緒に居たい。1番近くでね」

良かった。笑っていてくれている。
「移植を待つ間、入院中にまたこうやって2人で花火をしようよ。何回でも火をつければ、ほらずっと綺麗だよ」

周りのみんなも。僕たちも。本当は分かっていた。
ハルカの命の火が、もう消えかかってるってことを。

だからこそ現実に目を背け、花火を馬鹿みたいに無邪気に楽しんだ。子供のように。

カップルごっこだったかもしれない。
現実に背を向け、暗闇の中から希望を探すこと。
つまりは、大きな音を立てて迫り来る何かから、逃げるようなものだ。
それでも良いじゃないか。

くしゅんとハルカが小さなクシャミをした。
「戻ろうか」

「あとちょっとだけ」と粘るハルカ。

「帰らないと。身体に障るよ」

僕の現実的な判断に、彼女はゴールドのピアスをいじりながら唇を噛み、そして頷いた。

「部屋に戻ろうね」

僕のジャケットを膝にかけた彼女の車椅子を押しながら、我ながら最高の誕生日を祝えたと自惚れていた。

しかし僕はバカだった。
あの時本当は、彼女は何かを言いたそうにしていたんじゃないだろうか。

なぜ話を聞かなかったのか。
なぜ手を握らなかったのか。
なぜもう一度、目を見てキスをしなかったのか。

後悔しかないけれど、全部きっとそれも運命に違いない。多分。
でなければ神はどこにも居なくなってしまう。
どこにも。