「明日。誕生日だよね?」
腕の中にいる彼女にそう尋ねると、目を細めて頷いた。

「持ってきた物がある。ちょっと目を瞑ってくれる?」
紙袋から小さい2つの金属を取り出す。

「動くなよ?」
耳を優しく触り、両方の耳たぶにゴールドの小さな飾りを付ける。

閉じられた瞼に生えるまつげを見て、胸がドキドキした。
なんせ僕たちは、キスすらしたことがないのだ。

「目を開けて」

スマートフォンをインカメラにして渡す。

「ピアス。やっぱり似合うね。お誕生日おめでとう。どう?」

「ありがとう」

良かった。安心だ。喜んでくれのだ。
指輪やブレスレット。ネックレスに髪留め…。女性向けのプレゼントを選ぶのは本当に難しい。

点滴の邪魔にならないように。痩せた体でサイズがブカブカにならないように。
考えに考え、百貨店を何日も歩き回り、ようやく決めたプレゼントだった。

「これなら小さいしね。付けっぱなしでも違和感ないでしょ?」

ハルカが嬉しそうにピアスを触る。

「このまま写真を撮ろうか」
シャッターを切った。

とてもかわいい。見立て通り、凄く似合っている。
そして気がついた。ハルカの目から涙が溢れていることに。

「ごめん。嬉しくてつい」

良かったと安堵し舞い上がった僕は、それの言葉を信じ、堰を切って話した。

「そんなに嬉しいなんて、僕も嬉しいよ。治るよ絶対。そうしたら、やりたいこと。いっぱいあるんだ。映画、ドライブ。外食もしたい。遊園地も行こう。あと旅行も」

夢に描いていた数々のデートプランを、彼女は微笑みながら聞いていた。

「移植の順番が早く回ってきて欲しい。本当は僕心臓をあげられれば良いのに」

「それじゃあなたが死んじゃうじゃない」
また彼女が笑ってくれた。

「じゃあ心臓を半分こな?なかなか悪くない話だろ」
僕たちの会話には、当たり前のように、時々”死”という単語が出てきていた。

生きることと死ぬことは、とても近い位置にある。
表と裏。
踏み外したらすぐに足を取られる沼のようだ。

彼女の場合は特にそうだったのかもしれない。