「お見舞い。来てくれてありがとう」
「ううん。僕の方こそ」

そもそも僕が来たくて来ているのである。
でなければこのデートも、恋人としての関係も成立しない。

ハルカはこの病院というコンクリートの檻に閉じ込められたか弱き小さい鳥だ。
守ってやらねばと、僕は騎士のような気持ちになった。

「そういえば」
最近ずっと気になっていたことを切り出した。

「検査の結果、どうだった?先週にはもう出ているだろ」
この愚かな問いかけに、彼女が少し寂しそうな顔をした。
その表情が全てだった。聞くまでもない。

初めて会った売店では辛うじて歩けていた棒のような足も、もう車椅子なしではどこにも行動できなくなっていた。
日に日に細くなり、皮膚が木の皮のように乾き、髪の毛が薄くなっている。
とても体調が改善に向かっているとは思えなかった。

「抱きしめたくなった」
唐突に言った。何か別の話で励まそうにも、とっさに話題が見つからなかったのだ。
なにより本当は顔を見せたくなかった。
目の裏が熱くなり、涙が溢れそうになったのは嘘ではない。

「うん。いいよ」
快諾するハルカの折れそうに細い背中に腕を回す。
良かった…。あたたかい。
人間としての温もりに少し安堵する。

「僕はね。これから先もずっと。一緒に居るって決めてるからさ。例え逃げてもこうやって。ぎゅーってして離さないぞ」

彼女がくすぐったそうに身を震わせる。

「こうやって抱きしめて、癒して貰うんだ。携帯の充電みたいに。ピッタリくっついてると、毎日の疲れが飛んでっちゃう。不思議だよね」

腕の中でコロコロと笑い声がする。
つられて僕も笑う。

「かわいいなぁ。そうやってもっと笑ってごらん?病気の方から逃げてくんじゃない?怖いの怖いの飛んでけ〜痛いの痛いの飛んでけ〜」

ハルカの笑顔が。そのか弱い声が。たまらなく愛しかった。
僕に出来ることなら、なんでもしてやりたい。改めてそう感じさせた。