知り合った当初から、彼女はこの町で一番大きな総合病院に入院していた。
大学生だった僕が、副鼻腔炎という厄介な鼻づまりの手術で、1週間の病院生活を余儀なくされていた時のこと。
ここの1階にある売店が、記念すべき出会いの場だった。

長い点滴の管を手の甲に刺し、ズルズルとスリッパを言わせながら歩く小さいハルカ。
実際の年齢よりも随分と幼く見えたのは、長年の病いのせいだろう。
正直中学一年生くらいにしか見えず、実年齢とは五歳ほど異なっていた。

背の低いピンクのパジャマ姿の女の子が背伸びをしている。
プルプルと手を限界まで伸ばしている姿に、思わず声をかけた。

「届く?」
頭二つ分背の高い僕は、ペットボトルを代わりに取ってやった。

ただのミネラルウォーター。
こんなもの、水道の水で良いじゃないか。

「ありがとう」
思った矢先に、鈴の鳴るような声が向けられ、その声が僕の鼓膜と心を震わせた。

これが付き合いに至ったきっかけであり、僕の一目惚れでもあった。
そう。僕は初めて誰かに恋をした。
それからは早かった。頼み込むように交際を申し込み、半ば強引に付き合ってもらった。

ハルカはとても驚き、しぶしぶ交際をすることを許してくれた。
退院はまだずっと先だが、それでも良いかと条件をつけて。

その時小さな声で教えてくれた。
「私ね。ずっと心臓を待ってるの」

聞くと病気のために高校には上がらず、何年も変わらない毎日をこの病院で過ごしていると言う。

つまり移植の順番待ちのハルカとは、この病院という寂れた場所でのみ会うことを許されたのだ。