ある8月の下旬。夕方のことだ。
ハルカの入院している病室の戸をゆっくりと開く。

万が一眠っていたら、それを起こしてはいけない。
僕という存在が、決して彼女の妨げになってはいけないのだ。

「…あ、起きてた?」

自然と目が合い、ボブに切りそろえられた小さな頭がこくりと頷く。
お互いに自然と笑みがこぼれる。

このやりとりを、かれこれ1年近く、何度となく繰り返してきた。
見つめあったまま、白く整えられた5畳ほどの部屋に入り、パイプ椅子に腰を掛けた。
ギシリと金属の少し錆び付く音を聞きながら、会話を続ける。

「えっと、あの。飯食った?」
お決まりの質問をする。

「うん」
いつもと全く変わらない回答。良かった。安心だ。

会話のテンプレート。
そしてこれが、僕たちのデートの始まりの合図だ。