手紙を読み終わると、なぜだか頬が濡れていた。

便箋に残された彼女の涙の跡の上に、僕の涙もいくつも重なっている。
なんともまぁ、頑固者同士のカップルだ。
似たような性格だな、と泣きながら少し笑った。

残された片方だけのピアス。
今となっては握りしめ過ぎて、時間の経過と共にすっかり色褪せてしまった。

彼女は年に一度だけ、自分を思い出すようにと残してくれた。
でも僕は、月命日には墓へと訪れる。

ごめんなハルカ。君以外の人を好きになれないや。

健気で、笑顔が可愛くて、素直な心をしていた。
元気を貰っていたのは、本当は僕だったかもしれない。

なぜならいつも笑っていたのは、僕ではなく彼女だった。
励ましていたつもりだった。
しかし実は、僕の生きる糧。それはハルカの存在であった。

ハルカ以上の人は、どこにも現れない。
いや、正直探してもないし、求めてもいない。
なぜなら僕にはこのピアスがあるのだから。

ねぇ、いま、僕のこと見えてるかな?
あの時、恥ずかしがらずに、何度だって伝えておけば良かった。

「愛してる」
声に出したけれど、生温く吹く風に飲み込まれていった。

それでも良い。
絶対に聞こえているはずだ。

いつまでも若いまんまなんてずるいぞ。
そう思いながら空を見上げた。
涙は出ていない。

もう一度、不意にあの言葉が口から溢れた。
「愛してる」

返事はいらない。
何十年か経ったら飽きる程に聞かせられるだろう。それを僕は密かに楽しみにしている。



石の下に眠る君だけを、僕はずっと愛している。