思わず喜んで両手を上げてしまったテユノはあんな戦いを繰り広げたとは思えない年相応の可愛らしい女の子だった。
 負けた人狼の少女は呆然としていたが悔しかったのだろう、退場する時に泣いていた。

 簡単に勝てる相手ではないと思ったけれどそれでもまだ勝てる相手だとおごりがあった。
 そうした慢心が人狼族の少女の油断を誘い、テユノの起死回生の策にまんまとハマってしまった。

 正直な話もっと警戒していれば分かったはずだ。
 無理に詰めようとしたって足払いもかわせる速度だったし転ばされた後だってどうにか距離を取ることだって出来た。

 経験不足、油断が人狼族の少女にとって悪い方に働いてしまったのだ。
 順当な実力ならテユノは勝てなかっただろうと戦いを見ていて思ったがどうであれ勝ったのはテユノ。

 これが勝負というもの。
 同い年のライバルがいなかったことも人狼族の少女にとっての不幸だったのかもしれない。

 12歳で15歳を下した。
 これは並々ならぬ快挙であってきっとテユノはしばらくの間持て囃されること間違いなしだ。

 次に始まるのはリュードも参加する男の子の子供部門。

 警戒すべきは女の子グループ同様に15歳だろう。
 15歳の子供はやや多く4人。

 人数は12人いるので優勝するのに4回戦う山と3回戦う山ができる。
 くじ引きの結果リュードは運悪く4回組の山になった。

 しかしその代わり15歳の内3人が逆側の山に固まった。
 おそらく15歳の参加者は勝ち上がるだろうから優勝するにしても4人中2人、15歳を相手にすればよいことになる。

 運がいいのか悪いのかどちらにしても勝てばいい。トーナメント表を前に高ぶる気持ちを抑えられなかった。
 テユノの優勝の熱が冷めやらぬままリュードの戦いも始まった。

 リュードの1回戦の相手は12歳の竜人族。
 奇しくも同族同い年対決はリュードによる胴への一撃で瞬殺だった。
 
 申し訳ないがリュードが見据えているのはもっと先。ここで体力を使うわけにはいかない。
 2回戦は14歳の竜人族、こいつには見覚えがあった。

 以前から人のことをツノありだの獣人だの馬鹿にしてくれたクソ野郎である。

「1回戦はたまたま勝ったようだが俺が相手ではそうはいかないぜ!」

 リュードが12歳なので完全になめ切っている。
 相変わらずムカつくことだが見てろとリュードは冷静さを保つ。

 本当にたまたまだったのか証明するのは口先ではない。
 剣で証明してやる。

「始め!」

 女子の時と同じく近くにいる審判が試合開始の号令をかける。

「お前みたいなのはルフォンにふさわしくないんだよ、オラァ!」

 開始の号令とともに一直線に駆け寄ってきて大振りの剣を真っ直ぐに振り下ろす。
 そんな馬鹿みたいな攻め方当たるはずもない。

 リュードに軽々とかわされてムカついたように眉をひそめた。

「おりゃりゃりゃ!」

  膂力に任せて剣を振り回すもリュード余裕で回避していく。
 あんまり回避ばかりではつまらないのでそろそろ反撃に出るとしよう。

 リュードも相手も武器は剣。
 どちらもやや大振りの剣を使っているが体格は2つ上の相手の方が体格が良いのでリュードの方が大きい剣をもっているように見える。
 
 ただ同じほどの大きな剣を扱ってはいるが扱い方は異なっている。
 基本的に竜人族の剣はガンガンと押していくタイプが多い。

 熟練すると防ぐのも難しく苛烈な攻めを得意とする剣になる。
 しかし相手の剣はかなり荒削りで雑もいいところ。

 基礎は一応押さえて剣を振るっているが力任せな感じが拭えていない。
 それに対してリュードの剣は冒険者であり人狼族でもある師匠ウォーケックから習った剣である。
 
 竜人族の剣を剛剣というならウォーケックの剣は柔剣とでも言ったらいいのだろうか、受け流しや回避を主体として相手の隙を誘ったり疲弊させるやり方である。
 もちろん竜人族の中にいるのでガンガンと押していく剣も習っているがウォーケック流のやり方を今はメインに習っている。

 相手の呼吸をしっかりと読むことも大事な戦い方である。
 本気のウォーケックを相手にすると攻撃は受け流したり回避され、防御も力で受けるのではなく柔らかく威力を殺すように受ける。
 
 より未熟な子供のころは空気を相手に戦っているような印象すら持った。
 力を誇示するような竜人族の戦い方とは違っていてリュードは割とウォーケックの戦い方が好きである。
 
 もちろん力強く戦う竜人族の戦い方も嫌いではない。
 回避一辺倒だったリュードも剣を使い始める。

 相手の剣の軌道を変え受け流し、回避する。
 同時に反撃も少しずつ加え始める。

 最初はリュードの反撃も防がれていたのだけどリュードの攻撃の回転が早くなるにつれて攻撃を防げなくなっていく。
 力比べは何も降参しなければ終わりというものでもない。
 
 長い歴史の中で少しずつ変化していき、今では降参の他に4人の審判によって勝敗が判定される。
 致命的な一撃をしっかりと与える、致命的な一撃になりそうな寸止め、累積で見て致命的になりそうなど4人全員が一致してどちらか紅白の札を上げれば上がった札の方が勝利になる。
 
 リュードは白側になるがまだ札は赤も白も誰も上げていない。
 それもそのはずで反撃も致命的な一撃にならないようギリギリでかわさせて軽く当てているからだ。

 軽いといっても金属の剣が体に当たれば痛い。
 掠れば皮膚に赤い跡が残り痛々しい。

 少し意地が悪いかなと思うけどリュードも聖人君子ではない。
 ここで一度たまたまではない実力差をしっかりと叩き込んでやる。

 もうすでに相手には疲労の色が表れているし後一歩攻め立てればリュードが勝てるところまで来ていた。
 見る人が見れは実力差は歴然としている。

 しかしリュードもまだまだ見極めが甘い。
 少し当てる程度にしようと思った胴への突き相手がかわしきれずに肩にしっかりヒットしてしまった。