柿原(かきはら)は苦い顔をしているが、真奈美さんは真剣な顔をして何か考え込んでいるようだ。
 奏瀬の異能について深く考えても、奏瀬の者以外には結局関係ないのだが……まぁ、それで何か納得できるなら良いか。


「儀式については、以上です。他に話しておくことはひとつだけ。柿原も真奈美さんも、よく聞いてください」

「ん?」

「は、はい」


 2人の意識がこちらに向いているのを確認して、僕自身も何度も言い聞かせられた大切な話をする。


「“引き受け屋”は“想い”を引き受け、昇華します。一度昇華した“想い”は、二度と取り戻すことができません」

「お、おう」

「……しかし。同じ環境に身を置き続ければ、いずれまた同じ“想い”を抱くことになります。“想い”を昇華したからと言って、永遠にその“想い”に悩まされないというわけではありません」

「……同じ、“想い”を……」


 真奈美さんは深刻な顔をして、僕の言葉を繰り返す。
 それに頷いて、彼女を見つめた。


「“引き受け屋”は、足かせとなる“想い”を昇華し、依頼人を……依頼の当事者を解放します。けれど、その後行動するのは、真奈美(まなみ)さん。あなた自身です」「……はい」

「真奈美……」

「人を頼るのは、悪いことではありません。真奈美さんの場合なら、依頼を完了した後もご家族が助けてくれるでしょう。但し、どこかで必ず真奈美さん自身が勇気を出さなければどうにもならないことが出てきます」


 彼女の境遇と、僕の境遇は違う。
 彼女が抱える悩みと、僕が抱える悩みも、きっと違う。

 けれど、どうしてだろう。
 僕は、自分と彼女――……真奈美さんを、重ねているようだ。


「僕が、あなたを救います。だから、あなたは……自分のために。大切な人のために、一歩を、踏み出してください」


 僕は、自分以外の人のために一歩を踏み出したけれど。
彼女は、自分の“想い”で軽やかに、一歩を踏み出せたら良いと思う。

 今は、彼女に心を開いてもらうだとか、そんなのは関係ない。
 ただ、心からの笑みが浮かんだ。


「っ……! 奏瀬(かなせ)、さん……、……ありがとう、ございます」