“引き受け屋”が依頼を受ける時、必ず本人に手放したい“想い”について尋ねる。
 それは、儀式で引き受ける“想い”に、ちゃんと共鳴できるようその背景を深く知っておく必要があるからだ。

 今回のような、特大の“想い”を昇華する時も、“想い”を抱いた背景への理解は必須となる。


「では、儀式の具体的な手順を説明しますね。まず、僕と真奈美(まなみ)さんが向かい合って座り、簡単な口上を述べてから真奈美さんに忘れたい“想い”を思い浮かべてもらいます」

「あー、待った。それって2人きりでやんの?」

「通常はそうだ。他の者がいると集中が乱れるからな。だが今回は、家族の方に同席してもらうことになるだろう」

「じゃあ、俺も近くにいていいんだな?」

「あぁ。真奈美さんに問題が無ければ」


 柿原(かきはら)の疑問に答えて、真奈美さんに目を向ける。
 今回僕と兄上が柿原の家に来たのも、家族の同席を許可するのも、真奈美さんに合わせるためである。
 しかし、それが逆に重荷となるなら、儀式は通常通り同席なしで進むだろう。


「あ、私もお兄ちゃんやお母さんにいてもらった方が安心かも……」

「それなら、ご家族に同席してもらいましょう。どうしても真奈美さんには負担をかけることになってしまいますから、少しでも落ち着ける環境作りに協力しますよ」

「ありがとうございます」


 ホッとしたように笑う顔に邪気はなく、いい顔をするなと感心してしまう。
 僕も控えめな微笑みで応えて、話の続きを口にした。


「続きの手順ですが、“想い”を思い浮かべてもらったら、僕が断りを入れて、先ほど柿原にしたように、額に触れさせていただきます」

「は、はい」

「気になるようでしたら目を閉じていても構いませんし、逆に何も見えないのが嫌だったら、目を開けていても構いません。最低限の接触に留めますので、気負わなくて大丈夫ですよ」

「複雑だけど、奏瀬(かなせ)って不純なこととか考えなさそうだしなー……」


 ぼそっと呟いた柿原に、冷めた視線を送る。
 大切な儀式でそのようなことを考える馬鹿がいるか。


「額に触れたら、後は僕が真奈美さんの“想い”を引き受けて離れ、涙に変えて昇華します。その後はまた簡単な口上を述べて終わりです」

「へー、それだけで終わり? あっさりしてんな」

「変化するのは心の内だけだからな。見ているだけなら、なお拍子抜けすると思うぞ」

「……あの、“想い”を引き受ける、って、どういう状態になるんですか?」

「“引き受け屋”が引き受けた時点で、真奈美(まなみ)さんは“想い”を手放した状態になります。その後の昇華は“引き受け屋”側の処理に過ぎないので、実質その時点で“想い”からは解放されますよ」

「あ、えと、そうじゃなくて……奏瀬(かなせ)さんの方は、どうなるのかなって」


 問われた疑問に、ふむと考え込む。
 こちらがどのように“想い”を扱っているのか分からないと不安なのだろうか。
 この場合どう答えるのが最適か……。


「……そうですね。これは奏瀬の異能を用いているので、ふわっとした話になるのですが……“引き受け屋”は相手の“想いに心を寄せて、共鳴……その“想い”を自分のものとして感じ取り、引き受けます」

「私の“想い”が、奏瀬さんの“想い”になるということですか?」

「えぇ、その通りです」

「よく分かんねー……」