渋い顔をしている柿原が何に詰まっているのかは知らんが、真奈美さんはちゃんと話についていけてるようで、神妙に頷いている。


「さっきは手を繋いでいただけですけど、それでも“想い”を昇華することはできるんですか?」

「極々表面的な、淡い“想い”であれば額以外からも引き受けて昇華することはできます。あまり意味もないので、ほとんど行うことはありませんが」

「そうなんですね……じゃあ、特別な体験をさせてもらったんだ! ね、お兄ちゃん!」

「え? あ、あぁ、そうだな!」


 予想外の感想で、少し驚いてしまった。
 今は家にひきこもっているようだが、真奈美さんは明るい性格をしているらしい。

 他人である僕にもあまり物怖じしている様子はないし……こうなると、そんな真奈美さんが類を見ないほどに強い“恐怖”を抱いていることが不可解に思える。
 彼女の“想い”の背景を知るには、やはりあの勉強机に隠されているものが鍵となるのだろうか。

 普通、物に“想い”が宿る事例というのは、長い年月をかけて想い続けた物だったり、心に深く刻まれるほど強烈な印象を受けた物だったりと、滅多にない状況ばかりだ。

 真奈美さんの身にも、その滅多にない出来事が起きたのか……それにしては、仲も良さそうな家族が何も知らないと言うのはおかしなことだ。
 兄上から電話口で“想い”を感じ取ったと聞いた時から分かってはいたが、これは相当に複雑な事情が隠れているようだ。