私は理恵から来たメッセージを見て、ふふっと笑った。
客が一人もいないとはいえ、返信をするのはマナー違反な気がする。映画が終わったらすぐに返信すると決めて、カバンにしまった。
気がつけば、映画は夏祭りのシーンへ。
浴衣を着た私と純也は人混みの中を歩きながら屋台をのぞく。
射的や輪投げで遊んだり、かき氷や焼きそばを買ったり。
おそらく屋台や夏祭りの運営に無許可で撮影をしたのだろう。スクリーンに映る映像はきちんと撮影されたというよりはほとんど盗撮に近い映像だった。だけどその分、よりリアルに楽しんでいる私と純也の雰囲気が伝わってくる
場面が変わり、二人は夜の浜辺で手持ち花火をはじめた。
火がついたろうそくに花火の先端を押し当て、火花が散った瞬間に純也が後ずさる。
花火はぼっと勢いよく燃え、色のついた火花が噴出する。
ハリーポッターが魔法の杖を振るように、手持ち花火を振って呪文を唱える純也。
無邪気で、純粋で、バカみたいに明るいいつもどおりの純也。
しかし、そんな純也の姿を見ても私はなにも思い出せない。
今までの映画のシーンはどれも思い出せたのに、ましてやこんなに楽しそうな記憶ならすぐにでも思い出せそうなのに。
なんだろう、この違和感は……。
モヤモヤとしながらも、意識をまた映画の中へともどす。
手持ち花火がなくなると、最後に二人は線香花火に火をつけた。
先端の火がぷくーっと膨らみ、静かに爆ぜる。
すると、純也は線香花火の先端を見たまま、つぶやいた。
『俺、奏と出会てよかった。奏のこと、好きだよ』
このセリフは用意されたものか、その場のアドリブだったのか。
そして物語のための嘘の言葉なのか、純也の本心の言葉なのか。
今の私にはなにもわからない。
いや、このセリフを言われた時の私にもわかっていなかったのかもしれない。
スクリーンの中の私は、その言葉に驚いたのか線香花火の火種をぽとりと落とした。
そして過去の私は、純也の言葉に答えることなく、消えた線香花火をじっと見つめたまま泣いていた。
この涙は演技じゃない。そもそも私には演技で涙を流せるような器用なことはできない。
じゃあどうして、私は好きな人に好きだと言われて、こんなに悲しそうに泣いているのだろう。
純也の線香花火は最後まで落ちることなく、燃え尽きて消えた。
『奏は、きっと大丈夫だから』
純也は私の頭をそっと撫でると、立ち上がり、夜の浜辺を歩いていった。
そこで映画は幕を閉じた。
館内に光が灯る。私は急に現実に引き戻されたような気分だった。
すると出入り口の扉が開き、二人の男性が入ってきた。
「八木さんと、野田さん?」
「奏ちゃん。久しぶり」
二人とも記憶の中の姿とは違っていた。
ひょろひょろだった八木さんは服の上からわかるほど筋肉がつき、ガタイが良かった野田さんはより大きく、そして立派な髭をたくわえている。
「元気だった?」
「はい。相変わらず忘れたり覚えたりの毎日です」
「そっかそっか」
「二人は今も映画撮影を?」
「ああ。毎日大変だよ。映画会社ってのはどこもブラックだね
そういって二人は肩を落として笑った。
二人とも姿は変わっても、中身はあのころのままで安心する。
私は二人を見た後、あたりを回す。
八木さんと野田さん。ここにはあともう一人いるはずだ。私をここへ呼んだ映画チケットの送り主が。
あの純也のことだ。スクリーンの横から完成試写会のようにでてくるとか、映写室からこっちを見下ろしているとか、そんな風に登場してくると思ったのだが、純也の姿はどこにもなかった。
「あの、純也は?」
私の問いに、八木さんは息を静かに吐いて答えた。
「死んだよ。3年前に」
客が一人もいないとはいえ、返信をするのはマナー違反な気がする。映画が終わったらすぐに返信すると決めて、カバンにしまった。
気がつけば、映画は夏祭りのシーンへ。
浴衣を着た私と純也は人混みの中を歩きながら屋台をのぞく。
射的や輪投げで遊んだり、かき氷や焼きそばを買ったり。
おそらく屋台や夏祭りの運営に無許可で撮影をしたのだろう。スクリーンに映る映像はきちんと撮影されたというよりはほとんど盗撮に近い映像だった。だけどその分、よりリアルに楽しんでいる私と純也の雰囲気が伝わってくる
場面が変わり、二人は夜の浜辺で手持ち花火をはじめた。
火がついたろうそくに花火の先端を押し当て、火花が散った瞬間に純也が後ずさる。
花火はぼっと勢いよく燃え、色のついた火花が噴出する。
ハリーポッターが魔法の杖を振るように、手持ち花火を振って呪文を唱える純也。
無邪気で、純粋で、バカみたいに明るいいつもどおりの純也。
しかし、そんな純也の姿を見ても私はなにも思い出せない。
今までの映画のシーンはどれも思い出せたのに、ましてやこんなに楽しそうな記憶ならすぐにでも思い出せそうなのに。
なんだろう、この違和感は……。
モヤモヤとしながらも、意識をまた映画の中へともどす。
手持ち花火がなくなると、最後に二人は線香花火に火をつけた。
先端の火がぷくーっと膨らみ、静かに爆ぜる。
すると、純也は線香花火の先端を見たまま、つぶやいた。
『俺、奏と出会てよかった。奏のこと、好きだよ』
このセリフは用意されたものか、その場のアドリブだったのか。
そして物語のための嘘の言葉なのか、純也の本心の言葉なのか。
今の私にはなにもわからない。
いや、このセリフを言われた時の私にもわかっていなかったのかもしれない。
スクリーンの中の私は、その言葉に驚いたのか線香花火の火種をぽとりと落とした。
そして過去の私は、純也の言葉に答えることなく、消えた線香花火をじっと見つめたまま泣いていた。
この涙は演技じゃない。そもそも私には演技で涙を流せるような器用なことはできない。
じゃあどうして、私は好きな人に好きだと言われて、こんなに悲しそうに泣いているのだろう。
純也の線香花火は最後まで落ちることなく、燃え尽きて消えた。
『奏は、きっと大丈夫だから』
純也は私の頭をそっと撫でると、立ち上がり、夜の浜辺を歩いていった。
そこで映画は幕を閉じた。
館内に光が灯る。私は急に現実に引き戻されたような気分だった。
すると出入り口の扉が開き、二人の男性が入ってきた。
「八木さんと、野田さん?」
「奏ちゃん。久しぶり」
二人とも記憶の中の姿とは違っていた。
ひょろひょろだった八木さんは服の上からわかるほど筋肉がつき、ガタイが良かった野田さんはより大きく、そして立派な髭をたくわえている。
「元気だった?」
「はい。相変わらず忘れたり覚えたりの毎日です」
「そっかそっか」
「二人は今も映画撮影を?」
「ああ。毎日大変だよ。映画会社ってのはどこもブラックだね
そういって二人は肩を落として笑った。
二人とも姿は変わっても、中身はあのころのままで安心する。
私は二人を見た後、あたりを回す。
八木さんと野田さん。ここにはあともう一人いるはずだ。私をここへ呼んだ映画チケットの送り主が。
あの純也のことだ。スクリーンの横から完成試写会のようにでてくるとか、映写室からこっちを見下ろしているとか、そんな風に登場してくると思ったのだが、純也の姿はどこにもなかった。
「あの、純也は?」
私の問いに、八木さんは息を静かに吐いて答えた。
「死んだよ。3年前に」