帰り道。
 私はカレンダーアプリを起動した。
 画面を何度かスクロールし、9月4日を見つけると長押しして予定を入力する。

『9月4日:映画撮影』

 来年も、次の年も、忘れないように9月4日に同じ内容を入力した。
 結論から言えば、先ほどの映画撮影は中止となった。いわゆるリスケだ。
 改めてスクリーン越しに純也から告白を受けた私は、どうしようもなく泣いてしまって返事をすることができなかった。
 20歳だから、大人だから、と覚悟を決めるために自分に言い聞かせてみたけど、泣きじゃくる私を優しくなだめてくれた八木さんや野田さんと比べれば、私はまだまだ子どもだった。
 だから、もっと大人になったときに、改めてこの映画を完成させようと話し合った。
 毎年、純也の命日である9月4日に映画を撮影して、純也の墓参りをする。
 完成はいつになるか分からない。けど、いつか絶対に完成させる。
 それが八木さんと野田さんと約束した新しい約束だ。

 空を見上げると、半分が夜に染まり、遠くの空はまだ夕日が残っていた。
 あの時とはまた違う夕暮れの空を見つめながら、私は純也に語りかける。
「純也。
 私を映画撮影に誘ってくれてありがとう。
 私をたくさん笑わせてくれてありがとう。
 私との約束を果たしてくれてありがとう。
 私も、純也のことを忘れないって約束したいけど、正直自信がない。
 病気ってそういうもんだし。
 でもね、だからってあきらめないよ。
 残り少ない命の中でも、決して生きることを諦めなかった純也みたいに。
 私も、この病気とともに生きていく。
 だから、もし忘れてしまっても絶対に思い出す。この約束だけは絶対に守る。
 そのために努力もするし、頼れるものには全部頼る。
 そこも、純也を見習うよ。

 純也。

 私は、純也に会えて本当に良かった。
 純也のこと、心から愛してる」


 ……うーん、どうだろう。
 これが、20歳の私の答え。純也はOKを出してくれるかな。
 そんなことを考えながら、私は理恵に『9月4日になったら、私に映画撮影って伝えて』とメッセージを送った。
 するとすぐにハテナを浮かべたうさぎのスタンプが返ってきて、私は思わず噴き出した。