重たい扉を開けると、ポップコーンの甘い香りがした。
きれいに並んだ赤色の座席を進み、スクリーンがよく見える真ん中の席に座る。
どうやら客は私だけのようだ。
数日前の突然届いた一枚の映画チケット。
差出人である森崎純也の名前に覚えがなく、私はスマートフォンや数年前からつけている日記をすべて見返したが差出人の名前は見当たらなかった。
でも、私はなぜか無視することができなかった。
『詐欺だったらすぐ逃げなよ!』
最後まで映画を見に行くことに反対していた親友からのメッセージにスタンプで返事をして、カバンにしまう。
すると、ふっ、とろうそくの火を吹き消したように照明が消え、館内は暗闇に包まれる。
つばを飲み込む音さえもうるさく感じる静けさの中、後方からカタカタカタ、と映写機の音が聞こえ、青白い光がスクリーンを照らす。
突然、セミの鳴き声が耳をつんざき、海沿いの町の風景が映し出された。
陽炎でゆらめくアスファルト。緑色の山。コンクリートの防波堤。
そして、透明な海。
「この海、もしかして……」
寄せては返す波に引き寄せられるように、失っていた記憶がよみがえる。
きれいに並んだ赤色の座席を進み、スクリーンがよく見える真ん中の席に座る。
どうやら客は私だけのようだ。
数日前の突然届いた一枚の映画チケット。
差出人である森崎純也の名前に覚えがなく、私はスマートフォンや数年前からつけている日記をすべて見返したが差出人の名前は見当たらなかった。
でも、私はなぜか無視することができなかった。
『詐欺だったらすぐ逃げなよ!』
最後まで映画を見に行くことに反対していた親友からのメッセージにスタンプで返事をして、カバンにしまう。
すると、ふっ、とろうそくの火を吹き消したように照明が消え、館内は暗闇に包まれる。
つばを飲み込む音さえもうるさく感じる静けさの中、後方からカタカタカタ、と映写機の音が聞こえ、青白い光がスクリーンを照らす。
突然、セミの鳴き声が耳をつんざき、海沿いの町の風景が映し出された。
陽炎でゆらめくアスファルト。緑色の山。コンクリートの防波堤。
そして、透明な海。
「この海、もしかして……」
寄せては返す波に引き寄せられるように、失っていた記憶がよみがえる。