「……なんだよ、急に」
特別教室の並ぶ四階の、照明のついていない暗い廊下。まだ梅雨の名残を感じさせる重たげな黒雲が窓の外に見える。雨どいの中を水が激しくぶつかる、ジャバジャバと言う音が轟いていた。
「で? オチは?」
幼稚園の頃からふざけ合ってきた俺たちだ。これもまた、その手のものだと俺は笑ったのだが、椎菜の顔は真剣そのものだった。
「オチなんてないよ。私は洋ちゃんと別れたい」
「椎菜……」
その声のトーンから、これは決して冗談ではないのだと悟った。
「なんでだよ……」
足が震える。
10年近い片想いの後の、決死の想いの告白。同じ高校に進学するため、受験勉強も必死でやった。
気持ちが通じ合い俺たちは、4月からはれてカレカノとして楽しく過ごしてきたはずだった。
「意味わかんねぇよ。なんで急にそんなこと言い出すんだよ、椎菜」
「……」
椎菜が悲しそうに睫毛を伏せる。
「つらそうな顔してんじゃねぇよ。その顔していいのは俺の方だろ!」
「……好きな人、出来ちゃって」
椎菜の言葉が胸に刺さる。本当に痛みを感じるものなのだと、頭の端でぼんやりと考えていた。
「……ふざけるなよ。俺に浮気するなって言ったくせに」
「ごめんね」
「言ったよな? お前が浮気したら俺は」
「解体して、私のほっぺ食べるんだっけ? で、その後、自分も死ぬと」
椎菜は小さくため息をつき、力なく笑う。
「そういうサイコパスなとこ、無理」
「あ、あれは冗談で……!」
「冗談でも、思ってもいないことは言えないよね?」
椎菜の瞳はただ深い闇のようで、その感情を読み取ることはできなかった。
「だから、ばいばい」
言い終えると同時に椎菜は視線を切り、立ち去ってしまう。
俺はその背を追うことも出来ず、ただ暗い廊下で雨の音を聞き続けていた。
夏休みに入った。
俺はどうしても諦めることが出来ず、椎菜へメッセージを送り続けていた。
『会って話せないか』
『好きな相手、俺の知ってるやつか?』
『いつからそいつのことが好きなんだ?』
『そいつもお前のことが好きなのか?』
しかし返事は一向に来ない。
全て既読がついているにもかかわらずだ。
(くそっ)
俺はスマホをベッドへと投げつける。
(これじゃまるで、ストーカーじゃないか)
そうはいっても諦めきれない。俺は放り出したスマホに再び手をのばす。
『30分だけでも会えないか?』
送信して間もなく、着信のアラームが鳴った。
「椎菜!」
だがそこに表示されたのは、『無理』の二文字。
「……っ!」
俺はスマホを取り落とし、ベッドへと倒れ込む。
小学生の頃ぶりの涙が溢れて来て、俺は布団をかぶり声を殺して泣いた。
夏休みも終わろうとしていたある日のこと。
俺は無駄だと思いつつ、その日も椎菜にメッセージを送った。
『最後に一度だけ二人きりで会えないか』
喉の奥にツンとした痛みを感じつつ、続けて送る。
『これで最後にする。二度とお前に話しかけないから』
すると間もなく着信があった。
『いいよ、デートしよう』
(えっ?)
『明後日の朝10時から夕方6時までなら大丈夫』
(デート……)
椎菜からの意外な返事に戸惑いつつも、胸の奥が甘く沁みる。
『絶対行く』
俺は迷わず承諾の返信をした。
特別教室の並ぶ四階の、照明のついていない暗い廊下。まだ梅雨の名残を感じさせる重たげな黒雲が窓の外に見える。雨どいの中を水が激しくぶつかる、ジャバジャバと言う音が轟いていた。
「で? オチは?」
幼稚園の頃からふざけ合ってきた俺たちだ。これもまた、その手のものだと俺は笑ったのだが、椎菜の顔は真剣そのものだった。
「オチなんてないよ。私は洋ちゃんと別れたい」
「椎菜……」
その声のトーンから、これは決して冗談ではないのだと悟った。
「なんでだよ……」
足が震える。
10年近い片想いの後の、決死の想いの告白。同じ高校に進学するため、受験勉強も必死でやった。
気持ちが通じ合い俺たちは、4月からはれてカレカノとして楽しく過ごしてきたはずだった。
「意味わかんねぇよ。なんで急にそんなこと言い出すんだよ、椎菜」
「……」
椎菜が悲しそうに睫毛を伏せる。
「つらそうな顔してんじゃねぇよ。その顔していいのは俺の方だろ!」
「……好きな人、出来ちゃって」
椎菜の言葉が胸に刺さる。本当に痛みを感じるものなのだと、頭の端でぼんやりと考えていた。
「……ふざけるなよ。俺に浮気するなって言ったくせに」
「ごめんね」
「言ったよな? お前が浮気したら俺は」
「解体して、私のほっぺ食べるんだっけ? で、その後、自分も死ぬと」
椎菜は小さくため息をつき、力なく笑う。
「そういうサイコパスなとこ、無理」
「あ、あれは冗談で……!」
「冗談でも、思ってもいないことは言えないよね?」
椎菜の瞳はただ深い闇のようで、その感情を読み取ることはできなかった。
「だから、ばいばい」
言い終えると同時に椎菜は視線を切り、立ち去ってしまう。
俺はその背を追うことも出来ず、ただ暗い廊下で雨の音を聞き続けていた。
夏休みに入った。
俺はどうしても諦めることが出来ず、椎菜へメッセージを送り続けていた。
『会って話せないか』
『好きな相手、俺の知ってるやつか?』
『いつからそいつのことが好きなんだ?』
『そいつもお前のことが好きなのか?』
しかし返事は一向に来ない。
全て既読がついているにもかかわらずだ。
(くそっ)
俺はスマホをベッドへと投げつける。
(これじゃまるで、ストーカーじゃないか)
そうはいっても諦めきれない。俺は放り出したスマホに再び手をのばす。
『30分だけでも会えないか?』
送信して間もなく、着信のアラームが鳴った。
「椎菜!」
だがそこに表示されたのは、『無理』の二文字。
「……っ!」
俺はスマホを取り落とし、ベッドへと倒れ込む。
小学生の頃ぶりの涙が溢れて来て、俺は布団をかぶり声を殺して泣いた。
夏休みも終わろうとしていたある日のこと。
俺は無駄だと思いつつ、その日も椎菜にメッセージを送った。
『最後に一度だけ二人きりで会えないか』
喉の奥にツンとした痛みを感じつつ、続けて送る。
『これで最後にする。二度とお前に話しかけないから』
すると間もなく着信があった。
『いいよ、デートしよう』
(えっ?)
『明後日の朝10時から夕方6時までなら大丈夫』
(デート……)
椎菜からの意外な返事に戸惑いつつも、胸の奥が甘く沁みる。
『絶対行く』
俺は迷わず承諾の返信をした。