「必要ないかもしれませんが、もしかしたら心護様に確認のため見ていただくことになるかもしれないのと、この箱ごと消える可能性があるからです。退鬼師関連の相手からの物だった場合、式を使って取り返す、あらかじめ何らかの術がかけられている、など……可能性は低いですが、念には念をいれておきたいと思います……どうでしょう?」

「よい判断かと存じます。ただ今お持ちしますので、お待ちください」

応接間を滑り出た詩を見送って、琴理はひとつ長い息を吐いた。

「琴理様、大丈夫ですか?」

「すみません……虚勢を張りましたが、少し動揺しています」

気遣ってくれる涙子に対しては、飾らない言葉を返した。

『大丈夫です』と言うことも出来たが、そうはしなかった。

おそらく琴理は、涙子に対して信頼を置き始めている。

「そうですよね……私も箱を開けたときはゾワッとしました……」

「男でも怖いですよ、これは。警察をうまく頼れないところが、退鬼師の弱点ですし……」

法の届かない場所に身を置くこともあるので、警察や法的機関との連携は難しいところだった。

たとえばこれが人間の仕業であっても、使役を使って行っていたら、証拠の問題や、そもそも訴えても成立しないことが多い。

「……いきなりなことを言ってしまいますが、宮旭日家の中で心護様の許嫁はいつ頃公(おおやけ)にされましたか? 花園と双方、全くの同時発表だったでしょうか」

琴理の質問に、涙子が瞬く。

「ご許嫁が決まったということの公表ですか? ご親族様は公式の発表以前に知っていたと思いますが、使用人はごく近い者しか知らなかったはずです。私や主彦は知らされていた側です。それ以外には、両家の報せをもって……お二人が七歳の頃だったと思います」

「何かお心当たりがあるのですか?」

主彦が訊いてきたので、琴理は顎を引く。

「いえ……想像の話ですが、心護様に片想いする方がいて、わたしに対しての嫌がらせの可能性もあるのかな……と」

「心護様にストーカーがいたことならありますよ」

「えっ!」

涙子のなんでもない風な言い方と内容、どっちにも驚いてしまった。

涙子は続けて説明する。

「犯人は成人している女だったので、そこは警察沙汰で御用になりました。退鬼師や祓魔師と関係のない、一般の人間だったので」