「その、自分で言うのも恥ずかしいのですが、わたしは重度のシスコンでして……妹が可愛くて可愛くて仕方がない性格でして……愛している、というのは、妹の愛理のことなのです」
琴理が恥ずかしさから顔をうつむけ気味に言うと、
「……そういえば琴理には妹がいたな。……はー……」
心護はそう答えた。
まるで愛理のことを知らなかったような言い方をされて、琴理はびっくりだ。
愛理は琴理より有名というか、琴理の評判にはいつも、妹の方が……という話がついているので、琴理を知っていて愛理を知らないわけがないと思っていたからだ。
「……男ではなかったか……」
ぽつりと心護がつぶやく。
愛理は妹なので弟ではない。
だがそれはなんだか論点がずれていく気がしたので、琴理は口にはしなかった。
心護は目の辺りに手をやり、上を向いて長く息を吐く。
とても心配をかけてしまったことが如実に伝わってきて、申し訳なくなった。
……自分はきっと、すぐにいなくなるだろうに。
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
琴理は、運転席に向けて言った。
運転をしてくれている男性は口元をゆるめる。
「私は若月公一(わかつき こういち)といいます。若君がお生まれの頃からおそばにおりますので、祖父の意味ではない方の『爺』、みたいなものでしょうか」
公一を『爺』と呼ぶにはだいぶ若い気がするが、本人たちがそう認識しているのなら、口を挟むことでもないだろう。
「そうなのですね。ご心配をおかけしてしまい、本当にごめんなさい」
「私は大丈夫ですよ。今回の件に関しましては、若君が若干やり過ぎだったことが功を奏したと言いますか」
公一が苦笑気味に言う。
「? やり過ぎ? ですか」
「気づいておられませんでしたか? 若君、琴理様の近くにご自分の式を配置していたんですよ」
「……ええっ?」
「おい」
琴理が素っ頓狂な声をあげると、心護が怒ったような声を挟んできた。
「若君、もうこの際色々明かしておいた方がいいですよ。いつまで一方通行するおつもりですか。こじらせるとあとあと大変ですよ」
一方通行? こじらせる? 琴理には意味がわからない単語ばかりが並んでいる。
顔もまともに合わさなかった許嫁には、相当嫌われていると思っていたのに……。
……何故か、心護の顔を手で覆っているその肌が、朱く見える。
「み、宮旭日様っ、お風邪を召されてしまいましたかっ? 使ってくださいっ」
先ほどとは反対に、琴理が心護にブランケットを押し付けた。