「まぁいいわ。本来の目的を果たさせてもらいましょう」

緋い怪異が一歩、また一歩とこちらに近付いてくる。

「待て」

僕が十手を構えようとすると新城が止める。

「新城?」

新城と僕の目が合う。

「おい、(あか)

ピタリ、と緋い怪異の歩みが止まる。
あの怪異は緋という名前なのか。
ふらふらしながらも新城は緋の前に立つ。

「俺がお前達の所へ戻れば、アイツは見逃してくれるか?」
「あらあら」

新城の言葉に僕は動きそうになるのを堪える。
動くなと新城は小さな声で僕に伝えている。その指示を破るわけにいかない。

「降参ということかしら?」
「あぁ、お手上げだ。呪いのせいで俺は疲弊している。その中で緋と蒼の二人とやりあえる自信はない」

両手をあげて降参というポーズをとる新城。

「姉様!」
「落ち着きなさい。蒼。貴方は祓い屋、嘘八百でその場を凌ごうとする手段があることもわかっているわ」

にこりと微笑みながら緋が新城をみる。
その目はどんな嘘すら見抜くという表情だ。

「でも、その様子を見る限り、本当に今できる手はないようね」

にこりと微笑みながら緋の手が新城の頬に触れる。

「大人しく私達と一緒に妖狐の里へ戻るというのならそこの人間は見逃してあげましょう」
「その言葉に二言はないだろうな?」
「あぁ、四葉(しば)に誓おう」

“四葉”という言葉にぴくりと緋の頬が動いた。
だが、それも一瞬で不敵な笑みを浮かべる。

「うふふふふふ、あははははははは。この時をどれだけ待ったことでしょう。ようやく、ようやく貴方が戻ってくるのね。さぁ、蒼」
「はい」

頷いた蒼と呼ばれる怪異が僕の横を通って新城の前に立つ。
緋と蒼に挟まれる新城。
ちらりと、新城がこちらをみる。