「全く」

騒がしい部屋から抜け出した凍真は懐へ手を伸ばす。
取り出したのは話し合いの場で外していた眼帯。
慣れた手つきで片目を眼帯で覆い隠す。
逃げ隠れする必要がない状況で眼帯を付ける必要はなくなったのだが、無暗やたらに弱点を晒している程、凍真も愚かではない。


「話しは終わりだろ?」

足音に気付いて振り返る。
後を追いかけてきた四葉が静かに立っていた。

「貴方の体の呪いの件はひとまず保留としましょう。もう一つ、守りての話です」
「雲川の話?あれは優秀だ。手駒として最高の」
「惚けてはいけませんよ。あの子の体の呪いともう一つの事です」

指摘に凍真は顔を顰める。

「呪いの件は方法を探している。もう一つは保留だ」

凍真の選んだ守りて。
雲川丈二の体は呪いにむしばまれている。
幼馴染が施した長期の呪い、それは長い期間を得て力をつけ在り方が変質した。
呪いを解呪する方法を凍真は模索している。
だが、その過程で彼はもう一つ、非常に厄介な力が潜んでいることに気付いた。

「わかっているのなら強くは言いません。ですが、祈りの力を侮ってはいけませんよ。最初は純粋なものでしょう。ですが、人はいつか堕落する。祈りもいずれは変化するでしょう……いずれ、あの子は向き合わなければなりません」
「わかっている」
「ならば、それ以上は言いません」

頷いた四葉は手を差し出す。

「久方ぶりに母と話をしましょう。貴方が長い間、どのような戦いをして、どのような出会いをしたのか、そのすべてを話してください」
「はいはい」

四葉に言われて凍真は呆れつつ、笑顔になる。

「はいはい、母上様」

そういって四葉の隣へ腰かける凍真。
久方ぶりの親子の会話。
それに水を差す者達はいなかった。