新城が苦痛に顔を歪めながら僕を引っ張ってくれた。
それが僕の命を救ってくれる。
立っていた場所に噴き出す火柱。
もし、あのまま前に踏み出していたら火柱で僕の体は焼き尽くされていた。
引っ張られた拍子に手の中にあった十手が零れる。
地面に落ちる寸前、伸びた手が十手を掴む。

「この匂い、貴方からトウマ様の……そう、貴方」

くんくんと十手のにおいを嗅ぐ緋い怪異。
薄く笑っていた顔から感情が消える。
十手を持っていない方の掌に赤い火の玉が現れた。

「さようなら。貴方はいらないわ。守りてなんて」

火が僕を包み込む瞬間、大量の札が周りに現れる。

「あらあら?燃やし損ねましたね」

不思議そうに首を傾げる怪異。

「新城……!」
「不用意に突っ込むんじゃない……妖狐(ようこ)の火は本気を出せば人間なんてあっという間に消し炭だ」
「その火を人間が作った札で防ぐなど、流石、トウマ様ですわぁ。あぁ、本当に、本当に」

妖艶な表情を浮かべながら怪異は新城を見る。

「ぐだぐだ、うっせぇ、今更、何しにきやがった」

荒い息を吐きながら新城はゆっくりと立ち上がる。
眼帯で隠していた目元を片手で隠しながら立つ。
いつもの余裕ある態度と違って、焦っている?

「今更?それは間違いですよ。だって」
「私達はお前をずっと探していたのだ」

後ろから聞こえる声。
夜道の上に現れた新たな怪異。
短い銀髪を揺らし、白い着物に蒼い瞳。
頭頂に伸びる二つの獣耳、そして揺れる七つの尾。

「あら、早かったわね。(あお)
「姉様。先走りすぎです」

楽しそうに話す緋い怪異に呆れた態度の蒼い怪異。
今迄に遭遇した中で上位の力を持つ怪異。
おそらく、黒笠よりも強い。

「ぐっ」
「新城!?」