凍真は巨大な獣となった蒼の体内に飛び込む。
普通の獣なら大量の唾液や粘液まみれになっていただろう。
だが、相手は怪異。
その姿は変異したものにすぎない。
口内に飛び込んだ瞬間、膨大な呪が凍真の体に襲い掛かる。
万全な状態の凍真ならすべてを簡単に払いのけられただろう。

「チッ」

舌打ちを零しながら少しずつ、前へ、前へと歩んでいく。
濁流のように迫る呪を一つ、一つと祓う。

「見つけた」

しばらくして、自らの体を抱きしめ丸まっている蒼をみつける。

「おい、目を」
「来るな!」

叫びと共に今まで強力な呪が放たれる。
呪は刃となって凍真の体を傷つけた。

「あぁ、来るな、来るな!私はお前を傷つける。傷つけてしまうんだ。だから、来るな!」
「それは誘にかけられた呪が原因だ」
「違う、違うんだ。あぁ、違う!」

いつもの無表情で毅然としたいつもの態度と異なる姿。
両手で頭を抱えながら彼女は違うと叫び続けていた。
凍真が前に踏み出す。

「来るな!」

強い拒絶の言葉が呪となって凍真に迫る。

「邪魔」

その呪を片手で祓う。

「来るな、嫌だ、近づくな!」

距離が近づくにつれて呪が強力になり体が切り刻まれて生傷が増えていく。
しかし、凍真は歩みを止めない。

「お願い……来ないで」

俯き表情が見えない蒼の体を呪が包み、巨大な手が凍真を圧し潰そうとする。

「いい加減」