巨大な獣の姿をみて新城が呟く。

「所詮、手駒なんだから何をしようとボクの自由だ」
「畜生に堕とすという事が何を意味するのかわかっていっているのか?」
「勿論、そもそも、ボクのものに手を出す不届き者だ。何をしようと自由だ」

誘の言葉に新城は無言になる。
いや、違う。
怒りの感情をコントロールしようと冷静さを保とうとしている。
それだけ誘のやったことが許せないんだ。

「新城」

僕は彼に呼びかける。

「僕はどうすればいい?」

問いかけに新城は睨んでいた誘から視線を外し、数回の深呼吸。

「雲川」

怒りに満ちた表情からいつもの……祓い屋としての新城の顔になる。

「俺が蒼を助ける間、全力で誘を叩き潰せ」
「わかった」
「お前ならできる。奴の炎をかいくぐって近距離で戦えば」
「うん、任せて」

僕が頷くと新城は暴れている獣に駆け出す。
彼に迫る狐火を十手で弾く。
特殊な力が施されている十手は狐火によって溶けることはない。

「その道具、中々、強力みたいだ。でも、キミの体は普通の人間。どこまで耐えられるのかな?」

けれど、指先までは守ってくれない。
弾いた際に指先が火傷してしまう。
十手を持ち替える。

「別にもう片方の指は使えるから問題ない」
「可愛げないなぁ。やはり、彼の方がいいや」
「わるいけど、新城の邪魔はさせないから」

彼へ視線を向けようとする誘を遮るように立つ。

「お前、邪魔だわ」

ぶわりと誘の尾が逆立つ。
異常なほど、新城に執着している。

「奇遇だね。僕も同じ気持ちだよ」

地面を蹴る。

「アンタは邪魔だ」

ちらりと横目で駆け出す新城を見る。
彼は巨大な獣の口の中に自ら飛び込むところだった。