森の中へ飛び込んだ凍真だが、闇の中から伸びてきた白い手。

「ぐっ、ぎぃっ!」

首を絞められ、尾が右手に絡みついた。
術を使う暇もなく地面の上へ叩きつけられる。

「ぐっ、ぐふっ」

呼吸がギリギリできる程度で抑え込まれているも抵抗を封じ込められていた。

「おやおや、ここは見覚えがあるなぁ」

誘が周りを見る。

「あぁ、そうだ。中途半端に操っていた小娘が暴走してキミの右目を抉った場所じゃないか」

動けない凍真をみながら誘は嗤う。

「懐かしいなぁ。四葉を封印した所をみられて駒として利用しようと思ったら、ボクと似たような気持ちを抱いていたから感情が爆発して制御を間違えてしまったんだ。あぁ、まさか、キミの目を抉るなんて所業……愛しているというのならやらないよね?妖狐はどうも歪んだ愛情を持ちやすいみたいで、本当に嫌になるよ。至高のキミを傷モノにするなんて、罰としてコイツは一生、ボクの駒にしてやる。使い潰して無様に捨てて」

「だ、まれ!」

尾で封じられている右手を振りほどこうと足掻く。

「む、だ」

音を立ててさらに二つの尾が腕に絡みついて拘束を強める。

「何を怒っているの?もしかして、同情しているとか?驚くほどの優しさだね。操られているとはいえ、キミの目を抉ったコイツの感情に嘘偽りはない。本心でキミの目を抉った。そんな彼女を恨むこそすれ、同情や優しさをかけるなんて……人間という奴は時々、理解できない行動をとるねぇ。そうだ」

呆れた様子の誘は思いついたように手を叩く。

「コイツの目の前でキミを犯してあげよう。ボクの中で一生取り込むつもりだったけど、人間の快楽を味わう事もやっていいよね?その時だけ、コイツの意識を戻そう。いやぁ、どんな反応をするのかな?泣きわめくかな?それとも絶望のあまり自我が崩壊するかな?とにかく、昔のやらかしはそれでチャラに」

誘の話が途切れる。
話に夢中だった誘は反応が遅れ、打撃音と共に茂みの向こうへ姿が消えた。
続けて、凍真を拘束していた蒼の動きが止まる。
意識を失ったのか、ガクンと地面に崩れ落ちた。

「……えっと、ヤバそうな状況であっているのかな?」

聞こえてきた声に凍真は内心、歓喜の気持ちを抱きながらそれを表に出さずため息を零す。

「普通、確信をもって助けるところだろ。後、遅すぎ」