瞳は何も映さず、染み一つない指先にごうごうと燃える狐火。
蒼がそこに立っていた。

「驚いたかい?別の理由で用意していたんだけど。良い意味で用意しておいてよかったね」

壊れた壁の向こうからゆっくりとやってきた誘。
誘は手を伸ばして蒼の頬へ触れる。
触れていた手が頬から首、そして、着物の中に入り、彼女の体へ伸びていく。
しかし、触られている当人は顔色一つ変えない。

「お前、蒼に、彼女に何をしたぁ!」
「へぇ、そんな顔できるんだ。不愉快だなぁ。まさか、そんな感情をコイツへ向けるなんて……キミの目を抉った張本人なのにさ」
「俺の質問に応えろ。クソ狐」
「汚い言葉。まぁ、ここにきて淡々とした態度から感情的なものをみられたから教えてあげるよ。さっきも話したけど、九尾になると色々な力が使える。その中に自分より尾の少ない子を操ることができる……こうやってね」

微笑みながら誘は蒼に囁く。
蒼は無言で狐火を凍真へ放つ。
放たれた狐火をギリギリのところで躱す。

「九尾の能力……面倒な」
「今のキミは万全とはいえない。そんな状況で九尾、八尾の相手ができるかな……といいたいけれど、面白い遊びを思いついた」

トンと誘は蒼の背中を押す。
押された彼女はふわりと宙に浮き、凍真の眼前に降り立つ。

「ぐっ」

衝撃と共に凍真は木に体を打ち付けられた。

「あぁ、くそっ、このバカ力……」
「……」

無言で拳を振り下ろしてくる蒼から距離をとる。
拳を避けても尾が拳みたいに丸くなり迫ってきた。

「あぁ、くそっ」

ギリギリの所で蒼が繰り出してくる攻撃を躱していく。
祓い屋としてトップクラスの実力を持つ凍真だが、身体能力は普通の人間より少し秀でている程度。
相手は怪異としてトップクラスの妖狐。
辛うじて対応できているが、次第に凍真の体に生傷が増えていく。
走って逃げるも臭いであっさりと場所を特定されてしまう。

「くそっ、屋敷から遠ざかっていたつもりが、誘導されてしまったか」