頭を押さえながら後退する誘。
ずぶりと音を立てて凍真の手が彼女の体から解放される。

「ようやく効いてきたか」

手についていた粘液を祓いながら凍真は誘をみる。

「何を、ボクに何をしたぁ!?」
「呪だ」

粘液のついた手を拭うようにしながら皮膚へ手を伸ばしてベリベリと引きはがす。
偽装していた皮膚の下から現れるのは大量の文字が描かれた札。

「バカな、緋の監視は完璧……術式を用意することはできない筈」
「確かに、アイツの監視は完璧だった。俺が用意することはできない。だから、頼んだ」
「……まさか!?」
「気付いたか、そうだよ。名前を与えたアイツらだ」

凍真に倒されて従うようになった一尾の妖狐達。
一、二、三と名前を与えられた妖狐。
彼らに頼んで式の直前に用意してもらった術を描いた札。
一尾の力では八尾や九尾と立ち向かう事は出来ないが祓い屋である凍真の力をサポートする点において強力な道具となる。

「驚いたな。名前を与えるだけでなく使役するなんて、只の人間にできる芸当じゃない。流石は、あの名前を持つだけある」
「そんなこと関係ない。俺は、十年以上前に交わした約束を果たす為、その為にこの地へ戻ってきた」

淡々と告げながら術式を覆った右手を握りしめる。

「あぁ、とてもカッコイイ……」

凍真をみて誘は笑みを広げる。

「ボクだけで事足りると思っていたんだけど……用意はしておく必要はあった訳だ」

体を呪で蝕まれているというのに余裕のある態度に凍真が身構えようとした瞬間。
背後の壁が音を立てて砕かれ、そこから伸びる白い手。
降り注ぐ殺意に気付いてその場から離れようとするも両手に肩を掴まれた。

「なっ、ぐっ!?」

視界の暗転。
ぐるぐると回転しながら外へ放り出された。

「……どういうつもりだ」

痛みに顔を顰めながら周りを見る。
そして、居た。
壊れた壁のすぐ傍、ゆらゆらと揺れる白い七つの尾。
白色の着物に、月下で輝きを放つ白い髪。