ぴしゃりと引き戸を閉めて彼は振り返る。

「まさか婚姻の儀に赤鬼と青鬼が迷い込むなんてね。我々を脅威と判断しての事でしょうか?」
「さぁな」
「それにしても」

振り返る誘はうっとりした様子で凍真を見る。
撫でまわすような目に凍真は嫌悪感で体を抱きしめた。

「美しい」

ふよふよと八つの尾が揺れ動いている。

「今日は別段と美しいよ」
「こんな格好を褒められても嬉しくないな。それと近づくな」
「連れない事を言わないでおくれよ。この日をずっと待っていたんだからさ」

畳の上をゆっくりと近づいていく誘。
その姿はどこか不気味さを感じる。

「ずっと待っていた?」

ブンと手が振るわれる。
咄嗟の事に凍真は反応できず壁に体を叩きつけられた。

「ぐっ」
「あの弱い姉妹(ヤツラ)にキミを渡さない。ずっと、キミが生まれた時から狙っていたんだ。キミはボクのものだって」
「男に告白されても、ねぇ」
「あぁ、そうか、男、キミはまだボクを男だと思っていたのか、ハハハッ、それは良い」

ニタァと誘は嗤いながら胸元をはだける。
妖狐の里いた頃から凍真は誘の事を知っていた。
里のナンバー2の地位にあり、四葉の次の実力者。
男でありながらその力に溺れる事無く冷静に男女隔てなく親しくする妖狐。
だが、はだけた着物の胸元。
そこに本来なら鍛え抜かれた胸筋はなく、男ならありえない二つの揺れる胸。

「……今のボクは、お、ん、な、だよ」
「お前……まさか」
「あははは、流石は彼女に鍛えられた事だけあるかな?そこのところの知識もあるわけだ。
その通り。ボクは禁術を行ったんだよ。その証拠に、ほら」

しゅるりと彼女の臀部から伸びる一本の尾。
八つだった筈のものが九に代わる。
九尾の妖狐。

「ボクはこの里で最強の力を持つようになったんだ……だが、四葉はそれを認めなかった。それどころか危険だと封印しようとしてきた。だから」