片目を抑えながら新城は地面に膝をつく。

「新城!?」
「あぁ、くそっ、おい、マジか!」
「待っていて、眼帯をすぐに」
「やめろぉ!」

駆けだそうとした僕の腕を新城が掴む。

「逃げるぞ、とにかく、コイツから少しでも――」
「ようやく、ようやく会えたね?トウマ様」

現れた怪異。
目の前にいた狐、その姿はどこにもなくいつの間にか現れた一人の女性。
赤を基調とした着物に背後からゆらゆらと揺れる八つの尾。
頭頂に伸びる二つの狐耳。
人外的な美しさを持ちながらも緋の瞳はランランと怪しい輝きを放っている。

「新城、彼女は」
「あらあら」

振り返る。
いつの間にか彼女が彼の前に立っていた。

「久しぶりに再会しましたが、やはり素敵な殿方になっておいでで、でも、その目、その力の色を見間違えることはありませんわ」

白い手が新城の頬へ伸びていく。
僕は咄嗟に彼の襟元を掴んで後ろへ下がらせる。

「あらぁ?」

背中に氷を入れられたような感覚が走る。
今までに感じた事のない殺意。
ただ視られただけなのに体中に穴をあけられたような感覚。
その視線の主は現れた妖狐。
ただ、僕を見たというのにすさまじい殺意が向けられた。

「私とトウマ様の逢瀬を阻むものは誰であろうと容赦しませんよ?」

白い指先に緋色の火が現れる。

「燃え尽きなさい」

振るわれる火。
直撃するとよくないと考えた僕は駆け出す。
火をギリギリのところで躱して、懐にしまっている十手を握りしめて目の前の怪異を狙う。

「あらあら」
「ぐぅ!」

後ろから手が伸びて無理やり下がらされる。