白無垢故に衣が床をこする音が響く中、彼女は凍真の体を抱き寄せる。

「そんな訳ありません。あぁ、悲しい、勘違いをしないでください」

衣装が崩れることを気にせずに緋は凍真を抱きしめる。
強く強く、抱きしめられた事で凍真は彼女の豊満な胸の中に埋もれる形になり、余計に彼女の臭いを感じさせられた。

「私は本当にあなたを愛しております。最初は嫌悪もありました。貴方は人間で弱く脆い存在だと、ですが、あの日、里に迷い込んだ穢れ神を祓いのけた事で貴方の力を知った。それからです。貴方の事を気になりだしたのは……貴方の力が必要なのは事実です。ですが、ですが、あぁ、本当に私の口から言わせるなんて罪なお方、私は、緋は貴方の事をお慕いしております。本気で愛しております。こういう形で貴方と婚姻できなかったのですよ」

長々と告げられた言葉、どす黒く濁った瞳、口の端を三日月状に広げ、普通の人なら恐怖のあまり発狂していただろう。
側近達は緋が放つ狂気に青ざめていた。

「あ、そう」
「連れない態度ですこと、まぁ、そこが素敵なのですが」
「……時間は良いのか?」
「あら、そろそろですわね。さぁ、行きますわよ」

緋に返事をして扉を開く側近達。
一定の距離を保ちながら緋と凍真の二人は廊下を歩いていく。
二人の姿を参列者へみせる。
そうすることで緋の計画は第二段階へ進む、
筈だった。

「大変だ。当主代理!」
「何事ですか?」

慌てた様子でやってくる誘に緋が当主の顔として尋ねる。

「赤鬼と青鬼の連中が会場で暴れだした」
「……結界内に鬼を招き入れたというのですか?監視の目は!?」
「わからない。だが、あの暴れようだとここも危険になる。花婿は私が安全なところに」

誘の言葉に緋は渋々という形で頷く。

「わかりました。騒ぎの鎮静は私が行いましょう。花婿の事は頼みましたよ」
「えぇ、任せてください」

緋は顔を顰めながら足場に配下の狐達を連れていく。
残された凍真を誘は「こちらへ」と案内する。
誘導に大人しく従う凍真。
しばらくしてある和室へ通された。

「ここなら安全でしょう」