婚姻の儀の日がきた。
妖狐の里の結界が解除され、招待される怪異達がぞろぞろと里の中へ入っていく。
里の中で妖狐達が作った料理や特別に作られた衣類等が販売されている。
それらを通り抜け先に広がるのが婚姻の会場。
妖狐達によって作られた地酒や料理がさらにふるまわされる。
飲めや歌えや大会場だが、周囲の警備はしっかりとされていた。
会場の奥。
緋や蒼が信頼する一部の妖狐が入口を固め、その奥に婚姻の儀を迎える二人がいた。
互いに白無垢(しろむく)を纏っている。片や笑顔だが、もう片方は無表情。
白無垢は室町時代の頃から着られるようになった。打掛や掛下、合わせる帯や小物まですべてを白で統一している。
婚礼衣装の中で格式が高い一つ。
その衣装は緋が纏う事でより彼女の美しさを引き立てていた。
黒い髪、妖艶なスタイルを白無垢によってより艶やかな姿に変えている。

「いよいよ、この時がきましたわ」
「そうか」
「何年夢見た事でしょうか、あぁ、とても嬉しいです」
「はいはい、ところで蒼の姿が」

凍真が最後まで言い切る前に伸びてきた白い指が彼の口を物理的に塞いだ。

「花嫁がいるというのに別の娘の話を出すなんて、早速、浮気ですか?最愛の妹といえど許しませんよ?」
「心配しただけだろうが、てか、物理的に炎を出すな。側近が怯えているぞ」

凍真の指摘に深呼吸をして落ち着きを取り戻す緋。
怯えていた側近達は深呼吸を繰り返していた。

「さぁ、お披露目ですわ」
「お披露目?すぐに婚姻の儀をやるんじゃないのか?」
「昔と違いますもの」

ニコニコと緋は微笑む。

「妖狐は少し前から落ちぶれた、力が弱まったと侮っている者達がおります。そんな愚か者達に理解してもらうのですよ。我らは今も健在であるという事、母上のような……誰もが尊敬する当主に」
「……自らの威を示すために婚姻の儀を利用すると?俺は飾りか」

凍真の言葉に緋は笑みを消すと近づいてくる。