「あぁ、はいはい、わかったわかった。一、火を消せ。二、マッサージを忘れるなよ。三、汚い尻をみせるな」
「「「はーい!」」」

手を挙げて整列する三匹の妖狐。
余談だが、一尾の三匹は名前がない。
名無しと呼ぼうとも考えたがそれだと三人とも反応することから仕方なく、仕方なく彼らに名前をつけた。

「楽しそうだね」

仕事へ戻っていく三匹を眺めていると後ろから声。

「誘か」
「久しぶりだね。大きくなっていて驚いたよ」

今の里の中でナンバー3の位置にいる古参の妖狐。
ゆらゆら揺れる尾は何を考えているのか読めない。

「嫌味か?あの頃から二十センチくらいしか伸びていない」
「そうかな?いやぁ、男の子の成長は早いものだよ?」

ポンポンと凍真の頭を撫でてくる誘の手を払いのける。

「何の用だ?あいつらに頼まれて監視か?」
「まさか」

首を振りながら近づいてくる誘。

「私はキミを逃がしてあげたいんだよ」
「あ?」

周りに誰もいないことを確認して誘は言う。

「婚姻の儀が近づいている。もし儀式が終わってしまえば、キミはこの里から逃げられなくなる。正直言って、他所のものを巻き込んでまで儀式を行うという点に納得していない。四葉も望んでいない……」

顔を近づけて話しかける誘。
同性とは思えないくらい整った顔立ちと耳にかかる吐息。
そんな彼の様子を見ながら凍真は尋ねる。

「そんなことしたらお前の立場が危うくなるだろ」
「バレなければ問題ないさ。キミの身が心配だ。だから信じてくれないか?私の事を」

当主の立場にいるあの姉妹妖狐に反逆すれば古参の誘でも危うくなる。
しかし、その危険を冒してまで誘は助けようとしてくれていた。

「もし、実行するなら?」
「婚姻の儀当日だ」
「……少し考えさせてくれ」

凍真の言葉に誘は残念そうな顔をすると離れる。