「もし、僕が負けたら?」
「その時に考える」
「ちょっと、それは危険な事なんじゃ」
「わかった」
「雲川!?」
「ごめん」

叫ぶ瀬戸さんに謝罪をして僕は立ち上がる。

「審判は……あぁ、うちの娘は役に立たんから俺がさせてもらう。紅痲、良いよな?」
「構わんよ。青鬼の頭領」

紅痲が頷くと紅丸が前に出て刀を抜いた。
立ち上がった僕は腰に下げていた十手を取り出す。

「そんなちゃちなもので俺に勝てると?」
「大事な人からもらった物だ。侮辱しないで欲しい」

そこから互いに言葉は不要。
僕達は静かに己の獲物を見据える。

「はじめ!」
開始の合図と共に踏み込んでくる紅丸。
振り下ろされる斬撃を十手で受け流しながら顔に狙いを定めて拳を放つ。
鉄板を殴ったような痛みに顔を顰める。

「何か、したか?」

殴られた紅丸は痛みを感じていないらしい。
自由な手を伸ばして僕の胸倉を掴む。
まずい、と思う暇もないまま、視界が暗転する。
畳の上へ叩きつけられるなんて甘いものじゃない。
堅い壁に体がぶつかり、そのまま隣の部屋に転がる。

「人間にしては頑丈のようだ。普通なら今で意識を失っていた」

はじめてだと紅丸は言う。

「怪異に褒められても困るなぁ」
「だが、貴様が俺に勝つことはない。俺は最強だ」
「……その言い方」

どこかで聞いたことあるなぁと思いながら体の土ぼこりを祓う。
意識が少し朦朧としている。
でも、ここで負けるわけにいかない。
十手を構えようとした眼前に紅丸がいる。

――あ、ヤバイ。

何か言う前に頭へ一撃が入る。