「ったく、やったらいけないこととそうでないことの区別がつかないのか」

悪態をつく新城(しんじょう)の言葉に僕も同意する。

「今回ばかりは新城に同意するよ」
「動画配信者って奴は全く」

新城が苛立っている理由。
それは少し前に発生した怪異が原因だ。
廃業したラブホテルの一部屋。
動画配信者がそこに足を踏み込んだ。
怪談で噂の部屋で生配信放送するというもの。
だが、踏み込んだ場所がよくなかった。
ラブホテルで命を落とした女性の怪異がいる部屋。
そこに存在する怪異はウィルスのように見た者へ伝染していく。
実力のない祓い屋が手を出すことは禁止された場所。
どこで噂を聞きつけたのか、そこに踏み込んだ動画配信者。
異変に気付いた僕達が駆け付けるのが一歩でも遅かったら生配信でその怪異が多くの人の前に姿を現す事になってしまう……寸前だった。

「お前と一緒になってからここまで慌てたのは、悪魔の村騒動以来か?」
「そうかも、あの時は大変だったね。一人、また一人、死んでいくんだから」
「内容は異なるが、まぁ、大変だったな」

昔を思い出すように夜空をみあげる。

「今日は帰ったらゆっくり休めよ。明日は後処理も――」

近くの茂みから何かが飛び出す。

「あ?」

スローモーションのように飛び出した影が新城の片目、眼帯の部分に飛び掛かる。

「え?」

バチンと音を立ててはじけ飛ぶ新城の眼帯。
地面に落ちる眼帯を拾おうと手を伸ばす。
だが、現れた影が眼帯を加えて距離をとる。

「あれは、狐?」

新城の眼帯を奪ったもの、それは狐だった。
黒い毛並みの狐は眼帯を加えながらランランと赤い瞳を新城へ向けている。

「ぐぁああああああああああああああ!?」