あぁ、男
男だ。
ただの男ではない。
惰弱な男でもない。
強い男。
自分と同等、もしくは強い力を。

「弱い奴は生きている価値があるのか?」
「お前の言う弱いっていうのが何か知らないけれど、死んでいいものなんていねぇよ。少なくとも俺はそう思っている」
「貴様は、あぁ、そうだったな」

昔の事を思い出して蒼は炎を収める。
炎が消えた事を確認して新城凍真は指を鳴らす。
蒼の周りに漂っている光が消失した。

「フン」

漂う光を祓う様に着物を動かしながら凍真の傍に近付く。

「昼寝の邪魔だ」
「静かにしていれば問題ないはずだ」
「嫌だね。お前が傍に居たら眠れない」

睨む凍真だが、蒼は視線に気にせず近くの岩へ腰かける。

「着物が汚れるぞ」
「構わん。私はお前の――」

続けて言おうとした言葉をとめて眉間へ皺を寄せながら彼女は告げる。

「俺の監視だっていいたいんだろ。勝手にしろ」
「ぁ」

蒼に背を向けて横になる凍真。
口を少し開けて、続けようとした言葉を飲み込む。

「そうだ。貴様の監視が私の務め」
「だろうな。お前はそういう奴だ」

長い髪に隠れた目が蒼に向けられている気がした。

――お前の事が嫌いだ。

口に出されなくてもわかる。
蒼に対する新城凍真の好感度はゼロ、否、マイナスに近い。
彼の目を傷つけた相手と一分一秒、いたくないという気持ちはわかる。
ちらりと蒼色の瞳が横になっている新城凍真を映す。

「姉様と私はお前を逃がすつもりはない。何があろうと」

口を閉ざし、目を細める。

――逃がしはしない。