しばらくして草履の音と共に数人の妖狐が現れる。

「おい、人間。お前、生意気なんだよ」

――あぁ、聞いた事あるな。
朧気ながらに聞いたことのある言葉。
――生意気な人間。
――我々は偉大なる妖狐の一族だ。
――貴様のような低俗な人間は我らに頭を下げるのだ。
どれも一度はここに居た時に聞いた言葉。

「それで?」

だが、昔と違う事があるとすれば。

「お前らみたいな尻尾一本程度の連中が烏合の衆みたいに集まって騒いだところで痛くも痒くもないな」

無視をやめ敢えて相手と同じ土台に立ち。

「なに?」
「怒ったか?怒ったっていうならみせてみろよ。自慢の一族の力って奴をさぁ」

――徹底的に相手の性根を叩き折る。
性格が悪くなった事だろう。





蒼は中庭へ足を踏み入れる。

「あぁ、うぅ」

彼女の足元に倒れている妖狐達。
どれもが一尾の連中。
大した力もなく修業もしない。ただ自分達は選ばれたものだと勝手な思い違いで増長したもの。

「愚か者め」

意識が朦朧としている妖狐の一人が蒼のつま先に触れる。
その瞬間、彼女の毛が逆立つ。

「触れるな。この下郎め!!」

体から迸る妖力が炎に変換されて周囲へ広がっていく。

「やめろ」

全てを焼き尽くさんと炎が広がっていく瞬間。
それを阻むように淡い光が炎を押し戻す。

「殺そうとするんじゃない」

岩の上に腰掛けて蒼へ視線を向ける男。