「只の人間の血を混ぜるというのなら反対するのは納得でしょう。ですが、彼は只の人間ではない。人間世界で最強と呼ばれる祓い屋の一人といっても反対しますか?」

彼女の言葉でざわざわと広間が騒がしくなる。
凍真は面倒そうに蒼を追い越して空いている座布団の上へ座った。

「飯が冷める。早くしてくれ」
「うふふ」
「ふっ」

緋と続いてやってきた蒼が着席した事でざわめきを残しながらも食事がはじまる。
箸を手に取り、食事をとる凍真だが僅かに目線を周囲へ向けていた。

「(五つ、六つ、大体、八つくらいか)」

自分に敵意のある視線を向けてくる妖狐達。
沈黙の時間が数十分ほど、続き朝食が終わる。

「待て」

立ち上がり部屋を出ていこうとした凍真の腕を蒼が掴む。

「なんだ?」
「どこへいくつもりだ?」
「どこへだっていいだろう?どうせ、この屋敷から抜け出す事はできないんだからな」

傷跡がついている片目を突くよう指すと蒼は一瞬だけ表情を歪めると拘束していた手を離す。

「わかっているなら構わん。だが、怪しい動きをすればすぐに私か姉様の知ることになる事をしれ」
「はいはい」

忠告を右から左へ聞き流しながら凍真は部屋の外に出る。

「昔と違うな。あぁ、本当に」

呟いた最後の言葉を飲み込みながら屋敷の廊下を歩く。
屋敷は年季が入っておりながらも手入れはしっかりと行き届いており埃一つもない。
誰とも出くわすことのない廊下を歩きながら凍真はある方向をみる。

「あっち、か」

昔の記憶をたどりに廊下から外へ。
外へといっても屋敷は大きな塀に囲まれており、力のほとんどが使えない凍真では抜け出す事は不可能だ。
それ故に彼は一人で歩く事が許されている。
屋敷の中庭。
中庭といっても大きな池と生き生きした林に囲まれている。

「まさか、自分から目のつかないところへ移るとなぁ」

池の近くにある岩へ腰かけて数分。