凍真の呟きに蒼が振り返る。

「当然だ。ここは私と姉様が代理とはいえ、当主として管理している。落ちぶれた姿をみせることなど絶対にない」
「……他種族が攻めてくると未だに思っているのか?」
「難しいことは姉様が考えている。私は敵を排除するだけだ」
「脳筋かよ」
「何か言ったか?」
「さぁな」

ギロリと睨まれながらも惚ける新城。

「こちらだ」
「覚えている」

そういいながら大広間へ足を踏み入れる。
広間は多くの妖狐が既に着席していた。
この屋敷に住まう者達は食事を一緒にとることが暗黙の了解となっている。

「蒼、遅かったわね」

広間の上座、既に着席している緋が声をかける。

「コイツが駄々をこねるからだ」
「あ?俺のせいにするんじゃねぇよ!」

蒼の言葉に反応する凍真。
ぎろりとにらみ合う二人の姿に大広間が騒がしいことに気付く。
「(知らない顔ばかりだな)」

凍真がこの屋敷にいたのは数年前。

「当主代理!そこの人間は一体、なんなのですか!?」

緋の近くにいた年配らしき妖狐が尋ねてきた。

「皆に伝えようと思っていたのだけれど、そこの彼と私は婚姻の儀を行う事にしたの」
「なっ!?」
「人間と!?正気ですか!?」
「最強たる妖狐に人間の血を混ぜるなど!?」
「静かに!皆、まだ当主代理が話をしている途中だ」

パンパンと緋の隣に座っている男の妖狐が手を叩く。
流れるような金の髪を後ろで束ね、緑を基調とした着物を纏って柔和な笑みを浮かべている。
彼を凍真は知っていた。
だが、今は余計な事を言わずに沈黙を保つ。

「ありがとう。(いざな)

緋は彼に感謝の言葉を告げると立ち上がる。