「拘束と同時に居場所を察知する術式か……器用になったものだ」
「やはりわかってしまいますか……でも、時間はまだまだありますもの」

微笑みながら緋は立ち上がる。

「さぁ、朝餉の時間です。今日は私が腕によりをかけますから味わってくださいね」

にこりと微笑みながらも赤色の瞳はランランとした怪しい輝きを放ちながら部屋を後にする。
残された凍真は体を起こす。
妖狐姉妹によって着ていた衣服、道具のすべてを奪われてしまった。
今の凍真は無力でしかない。
ちらりと目の前に用意されている服へ視線を向けた。

「今は従うしかないな」

溜息を吐いて、用意された着物へ袖を通す。

「サイズぴったりな事に苛立ちを感じるべきなのか、恐れるべきなのかわからないところだ」

用意された着物、帯を纏って目の前の引き戸を開ける。

「来たな」
「……今度はお前が見張りか」
「私は不要といったのだがな」

縁側に腰掛けていた蒼い妖狐が視線を向ける。
立ち上がった蒼は指をすっと伸ばす。
凍真の眼前――眼帯をしていた目へ指を向ける。
眼帯を奪われ、隠していた瞳が露わになっていた。
蒼い瞳へ蒼は指を向ける。

「貴様が里を脱走したあの日、私が刻んだ呪いがある。特殊な道具で抑え込んでいたが、今はそれもない。故に貴様がどこへ向かったとしても私が見つけ出す。そして、今度は逃がさない」

口の端から鋭い歯を覗かせながら蒼は凍真をみる。
その瞳は光を映さず、どす黒い何かを孕んでいるように凍真は思えた。

「今は籠の中の弱きものだ。怪しい動きさえしなければお前は客人と同じ扱いを受ける」
「忠告、どうも」
「朝餉の時間だ。行くぞ」

先を歩く蒼に続く形で凍真はついていく。
木造で出来た廊下を歩きながら大広間へ向かう。
ちらほらと周囲を見渡す。

「何をそんな物珍しそうに見ている」
「数年ぶりに戻ってきたが建物周りは全く変わっていないな」