「妖狐は幻術や妖術を得意としている。かくいう俺達は諜報や隠密を得意としている。真っ向から挑んだら向こうの方が強い……何より、今の当主代理の姉妹達は歴代の中で強い力を持っていると聞く」
「……あの妖狐達」

僕の脳裏に蘇るのはあの緋と蒼の怪異。

「でも、僕は新城を助けると約束した。青山、どうすれば妖狐の里へいけるんですか?」
「普通に行こうと思えば行ける。だが、今のお前じゃはっきりいって里の入口の番人に瞬殺されるのが落ちだろうよ」
「だとしても」
「焦るなよ」

前のめりになった僕を青山が押し戻す。

「手がないわけじゃない。青鬼だけじゃ妖狐に勝てないからな。力を借りる」
「宛があるの?あ、三つのうちの最後の一つ?」
「天狗なら宛にできんぞ」

青山が口を開く前に話を聞いていた蛇骨婆さんが首を振る。

「天狗は何事においても中立を保つ。この世界の争いごとで世界崩壊にまで至らなければ動くことはしない。今回の件だけで動かんじゃろう」
「そんな、じゃあ、どこに宛が」
「……赤鬼だ」

青山の言葉に蛇骨婆は青ざめる。

「赤鬼じゃと!?あの脳筋連中が従うわけなかろう!?力でしか従わんという危険な連中じゃ」
「確かに下っ端はそういう連中ばかりだ……ところが」

懐から一枚の手紙を取り出す。
時代劇で見るような細長い手紙。

「それは?」
「赤鬼からの招待状だ。それも雲川丈二、お前さんにな」
「僕に?」

赤鬼がどうして僕の名前を?
そもそも招待される覚えがない。
困惑している僕に千佐那が僕の両手を握りしめる。

「お前様、本音を言えばその誘いを断って欲しいものだ。だが、事態が事態である以上、行ってもらわなければならない。複雑だ。非常に複雑だ」
「え、どゆこと?」
「僕も聞きたいよ」

千佐那の突然の行動に僕達は戸惑うしかできない。

「赤鬼の姫君が是非ともお前に会いたいという招待状だ……それがなぁ」
「あぁあぁ、運がないね」

茶を飲みながら蛇骨婆が笑う。

「運がないって?どういうことですか?」
「今の当主の赤鬼の招待状は二つの意味がある。一つは婚姻の候補であるということ、もう一つは仲間を傷つけたお礼……つまりお礼参りってわけだい」