この世界は、存外厳しいようで。毎日毎日頑張って生きていても、心は段々廃れていく。
 「辛い」とか「泣きそう」、最後には「死にたい」。そんな感情ばかりが浮かんでくる時がある。
 漫画のようにヒーローは現れないし、世界を変えてくれる救世主も現れない。

 藤野 月菜《ふじの つきな》、高校二年生。毎日毎日、勉強に部活に追われれば、疲れるのは当たり前で。

「あー、私を助けてくれるヒーローはなんで現れないの……!?」
「相変わらず月菜はポジティブなのか、ネガティブなのか分からないね」

 友達の咲《さき》が私の頭を撫でながら、話を聞いてくれる。

「まぁまぁ、月菜。現実は現実なんだから、そう簡単にヒーローは現れないでしょ」
「こんなに毎日頑張って、疲れてるのにー」
「はいはい。代わりに私が頭を撫でてあげる」
「咲様ー!」

 私は咲に抱きつきながら、もう一度考える。
 人間だから、私だって嫌な気持ちになる時もある。笑顔を無理矢理作らないといけない時もある。
 でも、それすら吹き飛ばすような希望が欲しい。

「ねぇ、咲」
「ん?」
「希望ってどうやったら持てるんだろ。漫画だったら、ヒーローとかヒロインが主人公に元気と希望をあげるでしょ?」
「……んー、じゃあ、もしヒーローがいたらなんて言って欲しいの?」
「え……それは、やっぱり『毎日頑張って偉いね』とか……?」
「うーん、じゃあ、自分で自分に言えば?」
「変人じゃん!」

 でも、その時ふと気づいた。
 ああ、変人でも元気が出れば、私の勝ちだって。
 だって、ヒーローもヒロインも現れてくれない。ならば、誰が元気をくれるのだろう?
 
 私じゃ駄目だろうか。

「よし!」
「月菜、急にどうした!?」


「私よ!毎日、頑張って偉い!」


「……うん、月菜。やっぱり、変人だったわ」
「あはは、いいの!元気出たから!」

 これで、一回私の人生に笑顔が増えた。それだけで、大分お得。
 疲れを吹き飛ばしてくれるヒーローもヒロインもいないのなら、今日は好きなことをすることを許してほしい。


 一人でも前を向けるよう頑張るから。


 一人でも笑顔でいられるよう頑張るから。


 一人でも明日を生きてみせるから。


 
 だから……



 希望を下さい、わたし様!




 fin.