青春卒業旅行

 その先のページは真っ白だった。
 街の本屋さんで買った少し厚めのノートは半分以上、白紙のまま5年も押入れの奥底で眠っていた。

 今日入居した神奈川のアパートには、今日届くように注文したベッド以外、何もない。何もない我が家でかつてそんなことがあったと、私の青春の記録を読み返していた。
 初恋の失恋から立ち直るのはなかなか大変だったが、もう20歳も見えてきた今となっては告白したときの喉の感じを思い出すのがやっとなくらい、あの痛み自体の記憶が薄れてきている。でも「痛かった」という事実はきちんと私の教訓として、染み付いているようだ。
 もちろん、中学校で彼氏を作ることはなかった。高校でも、作らなかった。
 中学校は好きだと思える人に出会えなかった。結局卒業するまで先輩のことが好きでいた。高校はかっこいいと思う人も、私のことが好きなんじゃないかと思う人もいたけど、私から何かアクションすることはなかった。

 『もう、元には戻れない。』

 あの言葉、というか、そう言われた衝撃が、私の一歩を強力な接着剤で地面に引き留める。
 きっとこの先もそうなんだろう。世にいう「キャンパスライフ」から恋愛を引いたものが私のそれになるのだろう。それでいい。それが私の人生だと思うから。

 「2016年4月1日
 私色にキャンパスを染めよう。」

 白紙の続きにそう書いた。
 そして筆入れの中から私らしい色を探した。
 それで次のページを塗りつぶした。
 ピンク色の蛍光ペン。
 重なれば濃くなるし、かすれれば薄くなる。そんなピンク色に1ページが染まった。

 佐倉舞音(さくらまいね)。私の学生生活が、ここからはじまる。