うちのゼミはとても仲がよい。
毎月20日すぎに飲み会があるし、季節ごとのパーティーも欠かせない。
春はお花見、夏は七夕、秋はキャンプに、冬はスキー旅行。2、3、4年生、15人ほどのゼミ生それぞれの誕生日会も盛大に行う。ゼミをまとめる飯森先生の誕生日会にはOBOGもかけつける。
不思議なのは誰もイヤイヤ参加している人が居ないということ。金欠とかバイトとかそういう理由で居ないことはあっても、ゼミの催しがあるのに、わざわざ独りで居ようと考える人は居なかった。
本当にあたたかいゼミだ。
本当に居心地がいい。実家生も私たち一人暮らし勢も、気づけばみんなゼミに集まっている。なにが私たちを惹きつけているのかわからないけど、それだけ魅力的なのが、この飯森ゼミだ。
街にクリスマスソングがあふれ、誰もが何も考えずに雪を望む頃、飯森ゼミはひと足先に12月の飲み会、忘年会を迎えていた。少し早めにするのは、リア充勢がクリスマスを大切な人と過ごせるように、という俗っぽい理由と、1月に迫る卒論提出日まで追い込みをかけるためというガチ目な理由とで、4年生は本当にここからギアをあげて卒論一色になるし、ゼミ生には結構リア充も居て、クリスマスはゼミに人が居ない日No.1だ。
3年生になった私、佐倉舞音は去年一緒にクリスマスを過ごした彼と別れ、今年のクリスマスは、ゼミの同期と過ごそうかと思いながら忘年会に臨んでいた。昔はあまりうるさくなかったようだが、飲み会には未成年、というか20歳未満は参加できないから、いくら下級生が飲み物係といってもまだまだ3年生が動かなければならないことも多い。
「舞音ちゃん、ビール3つお願い!」
「はーい。」
これもまた、強制した訳ではないが、飯森ゼミはビール率が高い。箸を置き、食べていた唐揚げを飲み込み、店員さんを呼ぶ。
「すみません、ビール3つ、お願いします!」
先に店員さんを呼んだのは同期の人見龍仁だった。いつもいつも、注文が入ればさっと動いて注文を完了させてしまう。飲み会的には「デキルやつ」だ。先生も先輩もいつも手柄を取ってしまう龍仁を見ていて、「たまには舞音ちゃんもね!」と、私に注文してくれるのに、それでも及ばない男だ。
「舞音ちゃん、ハイボール!」
「ハイボールお願いします!」
結局、今日も注文はすべて龍仁に取られてしまった。
まず、ビールの大波があり、それからハイボールやレモンサワーの波がくる。ここまで来ると、ゼミの飲み会は各々過ごすようになる。加減も考えず、とにかく飲みまくる男子集団。最近の彼氏の愚痴を言い合う女子集団。酔ったからこそ聞ける、学問の相談をする意識高い系集団。そういう前線で飲み会を楽しむ集団からは一歩引いて、カワイイ系のカクテルを飲む人が居たり、多少具合が悪くなり戦線離脱する人も居たり。色んな人が居るなぁとただ眺めている私のような人が居たり。本当に人それぞれで、毎回みんなやってることが変わるのも、面白い。
私はただ眺めていることが多いが、今日は参加している同期4人がそれとなく集まり、ただ眺めているだけではいられなくなった。
「美波ちゃんは2週間後、ヒマなの?」
「うん。もう半年いないからね。ペーさんは?」
「まだわかんねぇ。2週間あれば彼女できるかもしれねぇじゃん。」
内海美波は数少ない女子の同期。女子の私が見てもかわいらしいし、サークルも掛け持ちしているから、いつ彼氏ができてもおかしくないのに、この半年は恵まれていなかった。同期でペーさんと呼んでいる平川一平は一生彼女ができそうにない。去年ゼミに入って出会ったときから彼女を欲しすぎていて、とても彼女ができそうには見えなかった。本人もその「キャラ」を自覚して、彼女がほしいアピールやできない自慢をしつこく織り込んでくる。
「じゃあ、一緒にゼミ室でケーキ食べようよ。」
「ひとりで食べるのも寂しいもんね。」
私の誘いに美波がのってくれた。
「おれはひとりだったらな。龍仁は?」
ペーさんの問いかけに、龍仁は、あーともうーともつかない生返事で答えている。
「おい、もしかして、アテがあるのか? いや、まさか、もう居る?」
私も美波も、まさに固唾をのんで、龍仁の反応に注目する。
人見龍仁は同期3人が見つめるなか、ごくわずかにコクリとうなずいた。
(ああ、龍仁、彼女いるんだ…。)
大学生で飲み会でこれだけ動けて、そんなに顔も悪くなく、おまけに車も持っているのだから、彼女がいたって全然不思議ではない。むしろ、冷静に考えると「なぜ居なかったの?」という感じ。頭では理解していても、心のどこかで「龍仁に彼女が居るわけない!」と、一緒にクリスマスを過ごすことを想像していた。もちろん仲間として。
「ゼミの同期と過ごそう」には、美波もペーさんも入っているけれど、そこに龍仁が居ないのはどうしても想像ができなかった。いて当然の存在だった。
「じゃあ2週間後は3人だな。」
「3人なら、ホールじゃなくていいね。」
美波もペーさんも、何事もなかったかのように、3人のクリスマスパーティーの算段をつけていく。「みんなで集まる日に龍仁が居ない。」それだけのことなのに、それだけとは思えない自分がいた。
この時には名前がついていなかったが、きっとこれが生まれて初めての「焦がれる想い」だったのだろ。
毎月20日すぎに飲み会があるし、季節ごとのパーティーも欠かせない。
春はお花見、夏は七夕、秋はキャンプに、冬はスキー旅行。2、3、4年生、15人ほどのゼミ生それぞれの誕生日会も盛大に行う。ゼミをまとめる飯森先生の誕生日会にはOBOGもかけつける。
不思議なのは誰もイヤイヤ参加している人が居ないということ。金欠とかバイトとかそういう理由で居ないことはあっても、ゼミの催しがあるのに、わざわざ独りで居ようと考える人は居なかった。
本当にあたたかいゼミだ。
本当に居心地がいい。実家生も私たち一人暮らし勢も、気づけばみんなゼミに集まっている。なにが私たちを惹きつけているのかわからないけど、それだけ魅力的なのが、この飯森ゼミだ。
街にクリスマスソングがあふれ、誰もが何も考えずに雪を望む頃、飯森ゼミはひと足先に12月の飲み会、忘年会を迎えていた。少し早めにするのは、リア充勢がクリスマスを大切な人と過ごせるように、という俗っぽい理由と、1月に迫る卒論提出日まで追い込みをかけるためというガチ目な理由とで、4年生は本当にここからギアをあげて卒論一色になるし、ゼミ生には結構リア充も居て、クリスマスはゼミに人が居ない日No.1だ。
3年生になった私、佐倉舞音は去年一緒にクリスマスを過ごした彼と別れ、今年のクリスマスは、ゼミの同期と過ごそうかと思いながら忘年会に臨んでいた。昔はあまりうるさくなかったようだが、飲み会には未成年、というか20歳未満は参加できないから、いくら下級生が飲み物係といってもまだまだ3年生が動かなければならないことも多い。
「舞音ちゃん、ビール3つお願い!」
「はーい。」
これもまた、強制した訳ではないが、飯森ゼミはビール率が高い。箸を置き、食べていた唐揚げを飲み込み、店員さんを呼ぶ。
「すみません、ビール3つ、お願いします!」
先に店員さんを呼んだのは同期の人見龍仁だった。いつもいつも、注文が入ればさっと動いて注文を完了させてしまう。飲み会的には「デキルやつ」だ。先生も先輩もいつも手柄を取ってしまう龍仁を見ていて、「たまには舞音ちゃんもね!」と、私に注文してくれるのに、それでも及ばない男だ。
「舞音ちゃん、ハイボール!」
「ハイボールお願いします!」
結局、今日も注文はすべて龍仁に取られてしまった。
まず、ビールの大波があり、それからハイボールやレモンサワーの波がくる。ここまで来ると、ゼミの飲み会は各々過ごすようになる。加減も考えず、とにかく飲みまくる男子集団。最近の彼氏の愚痴を言い合う女子集団。酔ったからこそ聞ける、学問の相談をする意識高い系集団。そういう前線で飲み会を楽しむ集団からは一歩引いて、カワイイ系のカクテルを飲む人が居たり、多少具合が悪くなり戦線離脱する人も居たり。色んな人が居るなぁとただ眺めている私のような人が居たり。本当に人それぞれで、毎回みんなやってることが変わるのも、面白い。
私はただ眺めていることが多いが、今日は参加している同期4人がそれとなく集まり、ただ眺めているだけではいられなくなった。
「美波ちゃんは2週間後、ヒマなの?」
「うん。もう半年いないからね。ペーさんは?」
「まだわかんねぇ。2週間あれば彼女できるかもしれねぇじゃん。」
内海美波は数少ない女子の同期。女子の私が見てもかわいらしいし、サークルも掛け持ちしているから、いつ彼氏ができてもおかしくないのに、この半年は恵まれていなかった。同期でペーさんと呼んでいる平川一平は一生彼女ができそうにない。去年ゼミに入って出会ったときから彼女を欲しすぎていて、とても彼女ができそうには見えなかった。本人もその「キャラ」を自覚して、彼女がほしいアピールやできない自慢をしつこく織り込んでくる。
「じゃあ、一緒にゼミ室でケーキ食べようよ。」
「ひとりで食べるのも寂しいもんね。」
私の誘いに美波がのってくれた。
「おれはひとりだったらな。龍仁は?」
ペーさんの問いかけに、龍仁は、あーともうーともつかない生返事で答えている。
「おい、もしかして、アテがあるのか? いや、まさか、もう居る?」
私も美波も、まさに固唾をのんで、龍仁の反応に注目する。
人見龍仁は同期3人が見つめるなか、ごくわずかにコクリとうなずいた。
(ああ、龍仁、彼女いるんだ…。)
大学生で飲み会でこれだけ動けて、そんなに顔も悪くなく、おまけに車も持っているのだから、彼女がいたって全然不思議ではない。むしろ、冷静に考えると「なぜ居なかったの?」という感じ。頭では理解していても、心のどこかで「龍仁に彼女が居るわけない!」と、一緒にクリスマスを過ごすことを想像していた。もちろん仲間として。
「ゼミの同期と過ごそう」には、美波もペーさんも入っているけれど、そこに龍仁が居ないのはどうしても想像ができなかった。いて当然の存在だった。
「じゃあ2週間後は3人だな。」
「3人なら、ホールじゃなくていいね。」
美波もペーさんも、何事もなかったかのように、3人のクリスマスパーティーの算段をつけていく。「みんなで集まる日に龍仁が居ない。」それだけのことなのに、それだけとは思えない自分がいた。
この時には名前がついていなかったが、きっとこれが生まれて初めての「焦がれる想い」だったのだろ。