ポケットにしまっていたスマホを取り出し通知を見る。
『今何してるの?』
連絡は幼馴染の加奈からだった。
『塾、行ってるとこ』
僕はそう返信する。
僕の返事を待っていたのだろうか、すぐに既読が付いた。
『そっかー、何時まで?』
『十時だよ』
『わかった! 頑張ってね!』
今日は妙にさっぱりしてる……?
かなは中学生の頃、原因不明の病気にかかりそれから現在までの殆どを病院で過ごしている。
学校に行くことができず、友達もいないに等しい彼女は間違いなく暇を持て余してるのだろう。僕にはしつこいくらい連絡が来る。
まあ、それも昔から加奈のことが好きな僕にとっては、ご褒美のようなものなんだが。
そんなこんなで、少しだけ違和感を感じた僕だったが、三毛猫が行ってきますって言ってるスタンプを送って画面を閉じた。
そう僕は今、塾に向かっているところだった。
一年ほど前から僕はとある進学塾に通っていて、受験に向けてレベルの高い勉強をしている。
通ってる高校は特別偏差値が高いわけでない。でも、低いわけでもなくて、大学進学をする人は割と多い。
だから、普通に大学に行くのに塾はいらない。学校の勉強だけしっかりしておけばよいのだ。
だけど、僕にはかなえたい夢があった。それは、医者になることだ。
いや、正確に言えばそれも少し違って、ただの医者になりたいわけじゃない……加奈の病気を治してあげたいんだ。
でも、医者になるには高い学力が必要だ。だから、僕は塾に通うことにした。
いつも通り、塾は十時ぴったりに終わった。
今日はあまり集中できなかった。
やっぱりおかしいのだ。
僕の知ってる加奈は、もっとほらかまってちゃんでありえないくらい質問してくる。
今日の加奈は確かに加奈だけど加奈じゃない。
なにかあったのだろうか……?
加奈が心配で心配で頭から離れない。
そして僕は二十分後に出る電車に乗るため、足早に塾を出た。
出たらすぐ、加奈に連絡を入れるのは忘れなかった。
そして、駅に向かって歩きだした。
歩いている間もずっと加奈のことを考えていた。
大した時間経っていないのに反応のないスマホに少しだけイライラした。
勘違いしないでほしい。あくまで『スマホに』なのだ!
僕は一体どれだけ加奈のことが好きなんだろうか……。
表現が正しいのかはわからないけど、加奈は底なし沼にみたいで僕はどこまででも潜って行けそうだ。
その気持ちを伝えるわけにはいかないんだけどね……。
しばらく歩いて、半分ほど進んだとき、スマホが鳴った。
ピコンッ、ピコンッ……。
止まって、スマホを見ると、やはり加奈からだった。
『そうちゃん! 今どこ?!』
そしてたぬきが首をかしげたスタンプ。
僕の質問は完全に無視だし!
まったく、加奈はそんなこと聞いてどうするつもりなんだ。
まあ、加奈だからいいんだけど!
結果。僕は加奈に甘い。
それがわかるだけだ。
『塾と駅の間のコンビニのとこ』
そしたらやはり待ってたのかすぐに既読がついて……
『おっけー! ありがと』
ちょっと変な返事が帰ってきた。
やっぱり今日の加奈はちょっとおかしい……。
ほんとに何かあったのか?
いつもだと、
コンビニに寄ってるなんて言ってないし通り過ぎるだけなのに、
『うわぁぁ、そうちゃんコンビニずるい! 私も連れてってぇーー! 』
って感じなことが多いのに……。
なんかあったのかな。家に帰って、もしまだ起きてたら電話かけてみようかな。
よし、そうしよう!
そして僕はまた歩き出した。
ここから先は街灯が少なくて割と暗い……それに脇道も多いから僕も少し怖かったりする。だからか、自然と早足になっていく。
ドンッ、
脇道を通り過ぎようとした時、僕は誰かにぶつかって、そしてそのまま抱きしめられた。
「えっ……」
よく見ると、小柄な女の子だった。顎ラインで切りそろえられた髪。艶があって撫で心地が良さそう。
加奈の髪みたいだ。
ん?
そういえば、なんか知ってるこの感じ。
「加奈……?」
女の子はうずめていた顔をバッてあげた。
「そうちゃん! 久しぶり!」
その女の子……加奈はにっこり笑ってそう言ったんだ。
「ひさ、しぶり……? 」
頭の整理が追いつかない。
だって加奈は病院にいるはずじゃ?
「んーっ!そうちゃんのいい匂いがする。 落ち着くなぁ。 うんうん、やっぱこうじゃなきゃね」
僕の頭をフリーズさせた張本人は僕を抱きしめたまま、呑気にそんなこと言っている。
「ほんとに加奈だよね?」
「ん」
「なんでここにいるの?」
「んとねー、えっとね、あのね、そうちゃんに会いに来た!」
僕は、加奈のほっぺに手を伸ばしてビョーンって引っ張った。
「うひゃっ」
「そーゆー事じゃなくて! 病院とか親はどうしたの?」
僕は加奈のほっぺから手を離した。
彼女は僕から手を離し、ほっぺをさする。
「ホントなんだよ! そうちゃんに会いに来た。それだけなんだもん」
はぁ、ほんとにわかりやすい。
昔から変わってない。
「それだけ、ではないんだろ?」
僕は加奈の目を見つめる。
少し茶色がかった彼女の瞳も僕を見ているようだった。
どのくらい、そうしていただろう。
加奈がフッと笑って、目を逸らした。
「はぁ、やっぱりそうちゃんにはかなわないや。なんでバレるんだろう。ほんとに永遠の謎だよ。何言っても教えてくれないし! 」
「それでそれ以外、は何?」
「あのね、そうちゃんにお願いがあるんだ。そのために私は必死の覚悟できたの」
かなは小さく息を吸う。
「海鳴山展望台に行きたい。だろ?」
「えっ?」
「だろっ?」
「え? なんでわかるの? 私まだ一言も…… 」
「なんで分からないと思ってるんだ? 何年幼なじみやってると思ってる」
かながまた僕に抱きついてくる。
「連れてって。どうしても行きたいの。そうちゃんしか頼れないんだ」
ダメだよ。
元気そうに見えても加奈は病気なんだ。
いつ、何があるのか分からない。
かなを守る。
そんなのずっと前から誓ってる。
そのために医者になろうと思った。
でも今の僕はまだ無力だ。
何かがあった時に守ることができない。
だけど、今僕を抱きしめている彼女が、僕のことを頼ってくれる彼女が……こんなにも愛おしい。
だからなのか僕は彼女にこんなにも甘い。
僕の方こそだよ。
加奈には、かなわない。
これが恋の病ってやつなのかな。
結局はこう言ってしまうんだね。
「わかったよ」
「ほんと?! やったぁーー」
加奈はバッと僕から離れて、ぴょんぴょんとんでいる。
まるでさっきのが嘘だったみたいだ。
僕は、騙されたのだろうか……?
本気で思ってしまう。なんなんだこの変わりようは。
でも、そんなとこも昔っから変わらなくて可愛くて可愛くてしょうがないんだ。
これでいい。
僕にしかできないことだから。
『今何してるの?』
連絡は幼馴染の加奈からだった。
『塾、行ってるとこ』
僕はそう返信する。
僕の返事を待っていたのだろうか、すぐに既読が付いた。
『そっかー、何時まで?』
『十時だよ』
『わかった! 頑張ってね!』
今日は妙にさっぱりしてる……?
かなは中学生の頃、原因不明の病気にかかりそれから現在までの殆どを病院で過ごしている。
学校に行くことができず、友達もいないに等しい彼女は間違いなく暇を持て余してるのだろう。僕にはしつこいくらい連絡が来る。
まあ、それも昔から加奈のことが好きな僕にとっては、ご褒美のようなものなんだが。
そんなこんなで、少しだけ違和感を感じた僕だったが、三毛猫が行ってきますって言ってるスタンプを送って画面を閉じた。
そう僕は今、塾に向かっているところだった。
一年ほど前から僕はとある進学塾に通っていて、受験に向けてレベルの高い勉強をしている。
通ってる高校は特別偏差値が高いわけでない。でも、低いわけでもなくて、大学進学をする人は割と多い。
だから、普通に大学に行くのに塾はいらない。学校の勉強だけしっかりしておけばよいのだ。
だけど、僕にはかなえたい夢があった。それは、医者になることだ。
いや、正確に言えばそれも少し違って、ただの医者になりたいわけじゃない……加奈の病気を治してあげたいんだ。
でも、医者になるには高い学力が必要だ。だから、僕は塾に通うことにした。
いつも通り、塾は十時ぴったりに終わった。
今日はあまり集中できなかった。
やっぱりおかしいのだ。
僕の知ってる加奈は、もっとほらかまってちゃんでありえないくらい質問してくる。
今日の加奈は確かに加奈だけど加奈じゃない。
なにかあったのだろうか……?
加奈が心配で心配で頭から離れない。
そして僕は二十分後に出る電車に乗るため、足早に塾を出た。
出たらすぐ、加奈に連絡を入れるのは忘れなかった。
そして、駅に向かって歩きだした。
歩いている間もずっと加奈のことを考えていた。
大した時間経っていないのに反応のないスマホに少しだけイライラした。
勘違いしないでほしい。あくまで『スマホに』なのだ!
僕は一体どれだけ加奈のことが好きなんだろうか……。
表現が正しいのかはわからないけど、加奈は底なし沼にみたいで僕はどこまででも潜って行けそうだ。
その気持ちを伝えるわけにはいかないんだけどね……。
しばらく歩いて、半分ほど進んだとき、スマホが鳴った。
ピコンッ、ピコンッ……。
止まって、スマホを見ると、やはり加奈からだった。
『そうちゃん! 今どこ?!』
そしてたぬきが首をかしげたスタンプ。
僕の質問は完全に無視だし!
まったく、加奈はそんなこと聞いてどうするつもりなんだ。
まあ、加奈だからいいんだけど!
結果。僕は加奈に甘い。
それがわかるだけだ。
『塾と駅の間のコンビニのとこ』
そしたらやはり待ってたのかすぐに既読がついて……
『おっけー! ありがと』
ちょっと変な返事が帰ってきた。
やっぱり今日の加奈はちょっとおかしい……。
ほんとに何かあったのか?
いつもだと、
コンビニに寄ってるなんて言ってないし通り過ぎるだけなのに、
『うわぁぁ、そうちゃんコンビニずるい! 私も連れてってぇーー! 』
って感じなことが多いのに……。
なんかあったのかな。家に帰って、もしまだ起きてたら電話かけてみようかな。
よし、そうしよう!
そして僕はまた歩き出した。
ここから先は街灯が少なくて割と暗い……それに脇道も多いから僕も少し怖かったりする。だからか、自然と早足になっていく。
ドンッ、
脇道を通り過ぎようとした時、僕は誰かにぶつかって、そしてそのまま抱きしめられた。
「えっ……」
よく見ると、小柄な女の子だった。顎ラインで切りそろえられた髪。艶があって撫で心地が良さそう。
加奈の髪みたいだ。
ん?
そういえば、なんか知ってるこの感じ。
「加奈……?」
女の子はうずめていた顔をバッてあげた。
「そうちゃん! 久しぶり!」
その女の子……加奈はにっこり笑ってそう言ったんだ。
「ひさ、しぶり……? 」
頭の整理が追いつかない。
だって加奈は病院にいるはずじゃ?
「んーっ!そうちゃんのいい匂いがする。 落ち着くなぁ。 うんうん、やっぱこうじゃなきゃね」
僕の頭をフリーズさせた張本人は僕を抱きしめたまま、呑気にそんなこと言っている。
「ほんとに加奈だよね?」
「ん」
「なんでここにいるの?」
「んとねー、えっとね、あのね、そうちゃんに会いに来た!」
僕は、加奈のほっぺに手を伸ばしてビョーンって引っ張った。
「うひゃっ」
「そーゆー事じゃなくて! 病院とか親はどうしたの?」
僕は加奈のほっぺから手を離した。
彼女は僕から手を離し、ほっぺをさする。
「ホントなんだよ! そうちゃんに会いに来た。それだけなんだもん」
はぁ、ほんとにわかりやすい。
昔から変わってない。
「それだけ、ではないんだろ?」
僕は加奈の目を見つめる。
少し茶色がかった彼女の瞳も僕を見ているようだった。
どのくらい、そうしていただろう。
加奈がフッと笑って、目を逸らした。
「はぁ、やっぱりそうちゃんにはかなわないや。なんでバレるんだろう。ほんとに永遠の謎だよ。何言っても教えてくれないし! 」
「それでそれ以外、は何?」
「あのね、そうちゃんにお願いがあるんだ。そのために私は必死の覚悟できたの」
かなは小さく息を吸う。
「海鳴山展望台に行きたい。だろ?」
「えっ?」
「だろっ?」
「え? なんでわかるの? 私まだ一言も…… 」
「なんで分からないと思ってるんだ? 何年幼なじみやってると思ってる」
かながまた僕に抱きついてくる。
「連れてって。どうしても行きたいの。そうちゃんしか頼れないんだ」
ダメだよ。
元気そうに見えても加奈は病気なんだ。
いつ、何があるのか分からない。
かなを守る。
そんなのずっと前から誓ってる。
そのために医者になろうと思った。
でも今の僕はまだ無力だ。
何かがあった時に守ることができない。
だけど、今僕を抱きしめている彼女が、僕のことを頼ってくれる彼女が……こんなにも愛おしい。
だからなのか僕は彼女にこんなにも甘い。
僕の方こそだよ。
加奈には、かなわない。
これが恋の病ってやつなのかな。
結局はこう言ってしまうんだね。
「わかったよ」
「ほんと?! やったぁーー」
加奈はバッと僕から離れて、ぴょんぴょんとんでいる。
まるでさっきのが嘘だったみたいだ。
僕は、騙されたのだろうか……?
本気で思ってしまう。なんなんだこの変わりようは。
でも、そんなとこも昔っから変わらなくて可愛くて可愛くてしょうがないんだ。
これでいい。
僕にしかできないことだから。