・【天満真凛】


 別に俺は部屋を汚くしているほうじゃないので、そのまま入れようとしていると、天満真凛が部屋の前でこう言った。
「何か掃除するんだったら、五分くらい待つよ」
「別にいいよ、俺の中では汚くないし」
「神かよ」
 と言いながら一緒に部屋の中へ入ってきた。別に神じゃないだろ。部屋が汚くない高校生って普通にいるだろ。
「わぁぁあああ! インテンドースイッチもプーステ5も、おぉぉおぉぉおおおっ! ツイボックスもあるじゃん! すげぇぇぇええ!」
「あんま、ジロジロ見んなよ」
「でもめっちゃあるじゃん! そんな環境でコトバシレやってくれて有難う!」
「えっ? あぁ、まあ」
 何そのコトバシレ側の発言。全然関係無いだろ、オマエは。
 俺は適当に座布団を用意して床に投げ置くと、そんな座布団には目をくれず、そのままヅカヅカと俺の部屋の奥まで歩いていき、ベッドに座ると、俺の枕元に置いてあるスプラシーンのイカのぬいぐるみを掴んで、
「めっちゃデカい! ゲーセンのヤツぅっ?」
 と言ったので、俺は慌てて、
「枕元にあるヤツだからさすがにクサイだろ!」
 と言って、取り返しに行くと、床のテーブルに足を引っかけて、そのままベッドに前のめりで倒れてしまった。天満真凛のいないほうで良かったけども。
 すると天満真凛が快活に笑ってから、
「そんなドジあるぅっ? めっちゃ面白い!」
 と言ってきて、まあドジは俺も笑うだろうからいいとして、俺は顔を上げてから、イカのぬいぐるみを奪い取……あれ?
「触ったの初めてだから、もっと堪能させてよぉー」
 そう言ってイカのぬいぐるみを離さない天満真凛。
 いやいや、
「踏ん張るなよ、俺のだからっ」
 と言いつつも俺は力を入れるのを止めると、天満真凛は嬉しそうにイカのぬいぐるみを抱きしめてから、
「あーぁ、今度これ取ってよ」
 と俺の目を見て言ってきた。
「もう無いだろ、プライズ賞品は一期一会だから」
「そんなぁー、売ってくれなんて言えないしなぁ」
「ちゃんと言わないんだ」
 と相槌を打ったところで、いや天満真凛にとって知らん男子である俺が枕元に置いていたぬいぐるみなんて欲しくないか、と思っていると、
「ぬいぐるみってもうその人の持ち主になったら一生その人の大切な友達だからそれを売ってくれなんて言えないよねぇ」
 何そのしっかりとしたぬいぐるみ感。まあ俺もそう思っているけども。
 というか天満真凛のペースに合わせて、ちょっと喋ってしまっているなぁ。
 女子はどこに怒りの琴線があるか分からないので、慎重にしなければ。
 またあんな激高を喰らってしまったら、今度こそ立ち直れないかもしれない。
 いやまあそんなことよりも、
「ゲームで遊ぶって言っていたよな。何かする?」
 とできるだけ天満真凛が怒らないようなことを言うことにした。
 すると天満真凛はイカのぬいぐるみを優しく枕元に戻すと、急にバッとベッドから立ち上がってから、床に座って、
「ブラスマあるでしょ! ブラスマしよ!」
「まああるけども」
 俺はインテンドースイッチのコントローラーを天満真凛に渡した。
 すると天満真凛が、
「あれ? お裾分けじゃないの? あっ、弟とかいる感じ?」
「いや俺はブラスマの時はプロコントローラー使うから」
 と言って、棚から出すと天満真凛が、
「えっ! ズルい! アタシだっていっつもプロコントローラーだよ! アタシ客人なんだからそっちアタシが使う!」
 今のは演技の不機嫌だと分かるからいいけども、まあ何かまたガチの不機嫌になられると困るので、プロコントローラーを使わせてやることにした。
「やったぁ! 夢限くんはフェミニストじゃん!」
 こんなゲームのコントローラーを渡すだけのフェミニストなんていないだろ、と思いながら対戦スタート。
「アタシのテリスはVIPレベルだから最初はカーフィー使おうっと」
「最初は手加減するんだ」
「アタシにテリスを使わせてみな!」
 と何故か自慢げにそう言ってきた天満真凛。
 どうやらゲームが相当好きそうだし、手加減してわざと負けたら、バレそうだし、逆に不機嫌になりそうだなと思って、マジでやることにした。
 その結果がめちゃくちゃ良い勝負で。
「アタシのテリスが五分五分……めっちゃ強いじゃん! もう夢限くんのドリキーはVIPレベルだよ!」
「いや普通にVIPだけども」
「VIPだったんかい!」
 何か、久しぶりに、こんな昔みたいに、友達とゲームしているみたいな感じになれた。
 まあ天満真凛も悪いヤツじゃないのかもしれないな、と思ったところで、一旦休憩となった。
 天満真凛は天真爛漫に、
「麦茶あるっ?」
 と言ってきたので、
「じゃあ缶ジュースあっただろうから持ってくるわ、あんま部屋の中を覗くなよ」
「こっちの台詞だよ!」
 と言ってきて、そっちの台詞では絶対無いだろと思った。
 冷蔵庫からコーラを持ってきて、部屋に戻ってくると、俺のベッドに座って、イカのぬいぐるみを膝に置いて対面でいた。
 俺はつい反射で、
「いやその場から動くこともちょっとアレなんだよな」
 と言ってしまうと、天満真凛は笑顔で、
「懐柔しようと思ったけども無理だった!」
「会話してたのかよ、そして断られたのかよ」
 天満真凛はイカのぬいぐるみをまたベッドの枕元に優しく置いてから、床にストンと座って、尻歩きで机の前まで来た。
 いやスカート、今の危なかっただろ、見ないようにしたから良かったけども。
 コーラの缶を開けた天満真凛は、
「振ってこなかったんだ、そういうイタズラしないほうなんだねっ」
「俺の部屋だからな、こぼれたら困るのは俺」
 俺もコーラを口に入れたところで、天満真凛がこう言った。
「これほどのゲーム好き! 合格! 一緒にゲームを作ろう!」
 俺は突然の言葉に吹き出しそうになってしまうと、天満真凛が笑顔で、
「自分の振ってきた口?」
「振ってきてないし、そっちこそ何?」
「アタシね! スマホの拡張現実で町おこしのゲームを作る計画があるんだ!」
 急に壮大だな、でもプログラマーとかいるのか? そもそも何か正式な依頼とかあんのか?
 そんなことが気になっていると、天満真凛がほほうという表情をしてから、こう言った。
「気になってる感じだよね! うん! 参加させてあげる! こういうのはゲーム好き同士で作ったほうが話早いから!」
 何か妙に上から目線なのはきっと天満真凛の元々の性格だろうからいいとして、拡張現実で町おこしのゲームか……そんなんできるもんなのか? あとそうやって作ったゲームを一般人がするもんなのか?
「ねぇねぇ! 一緒に作ろうよ! ゲーム! 友達でこういうの興味ある人全然いないんだよぉ!」
 と少し甘ったるい声で言ってきた天満真凛。
 まああのヤンキーみのある加賀美昇介とかは全然興味無さそうだよなぁ。
 正直ゲーム作り自体には興味がある。ゲーム好きはゲームを作りたいと思ったことが最低一度はあるものだと思う。俺は正直毎日ある。
 あのコトバシレだって、ガチャを回させるために、いろんなギミックを作るが、もっと盤面を凝ったほうが面白いと思っているので、第二弾があったら俺も会議に参入したい。
 天満真凛が少し首をすぼめて、上目遣いになってきているところはちょっと腹が立つけども、興味だけなら全然ある、だから。
「まあ……興味はあるけども」
 と答えておくと、天満真凛は座りながらバンザイして、
「じゃあ決定ね! ほらほら!」
 と言って立ち上がったので、何なんだと思っていると、天満真凛は手にとったコーラを一気飲みしてから、
「アタシの家へ来てよ! もう夕暮れ近くてちょっとした時間かもしんないけども今からアタシの家で早速いろいろ考えよう! プログラマーも紹介するよ! 兄だけどね!」
 えっ、天満真凛の家へ行くって……ボコボコにされるんじゃ……いやいや、ずっと天満真凛の家で悪人がスタンバイしているってありえるのか? いやでも兄がそういうヤツだったら。そういうツツモタセだったら……でも完全に天満真凛は行く気満々って感じで、これ断ったらすごい空気になりそうな予感がする……興味あるとも言っちゃったし、断るのが不自然過ぎる……こんだけ会話して、一緒にゲームして『家はあの、貴方のこと信用していないんで無理です』って答えたら、険悪というかもうそのレベルじゃないかもしんない……もうボコボコにされること覚悟で行くしかないのもしれない、と思ったその時だった。
「げぇぇぇえええええええええええええええええええええ」
 天満真凛がコーラ・ゲップをした。
 それがもう何か、人の家でっていう失礼過ぎて、めちゃくちゃ笑ってしまうと、
「ほら! 夢限くんも自分の分飲んで、めっちゃゲップしながら行こうよ!」
 と天満真凛が顔を真っ赤にしながら、そう言って、もういいや、コイツ面白いから行ってやろう、と思った。