・【トラウマ】


 まあもうこの辺でお別れ、って気持ちで俺は鍵を回して、玄関の扉を開けて、締めようとすると天満真凛がデカい声を出した。
「危なぁぁあああっ!」
 えっ、と思って振り返ると、なんと玄関の扉に挟まれかけたけども、腕で防いだ天満真凛がいたのだ。
 いや!
「入って来ようとすんなよ!」
 ついデカい声が出てしまった俺に対して、天満真凛は少し不満そうに、
「まだ説得中だったでしょ! 一緒にゲームすることへの!」
 説得って……ただ天満真凛がゲームの話をしていただけでは? 説得という説得は無かったような気がするけども。
 俺は不満そうな顔をしている天満真凛に『うっ』と思いながらも、もうここで終わりって気持ちで、意を決して言うことにした。
「あの、もう家だから。また明日」
「えぇー! 一緒にゲームしようよ! ほら! インテンドースイッチはコントローラーがお裾分けできるから絶対二人でできるじゃん!」
 インテンドースイッチめ……陰キャのための文化じゃないのかよ、ゲームって、お裾分けコントローラーなんて作りやがって。
「何でそんな一緒にゲームしたくないのっ! クラスメイトじゃん! コトバシレ好き同士として一緒に遊ぼうよ! うん! コトバシレでもいいじゃん!」
 こう何か、女子に叫ばれていることも本当に苦手で、内心もう『う~』となりながら、できるだけ天満真凛のほうを見ずに立っていると、天満真凛が大きく溜息をついたので、つい顔を見てしまうと、完全に不機嫌な顔になっていて、その時に完全に俺のトラウマが開いてしまった。まるで走馬灯のように脳内を駆け巡る。
 中学生の時の校外学習の時、同じ班になった女子を無視して、友達と行きたいところへばかり行って、連れ回していたら、その女子が怒り出したのだ。
「もうなんなの! 自分勝手過ぎ! 私のこと何も考えていないじゃん!」
 そう言ってどこかへ行ってしまったその女子。
 俺は追いかけて謝ろうとすると、友達が俺の肩を強く掴んで、
「いいよ、あんなヤツ、他の女子のグループに入れなかった外れもんじゃん。無視しようぜ」
 俺は、
「でも」
 と反論しようとすると、友達がニヤニヤしながら、
「えっ? アイツのこと好きなん? 情が沸いちゃった的な?」
 とイジられて、じゃあもういいわってなって、その後は友達とだけで遊びまわって、学校に戻るバスの出発時間が近くなったところで、バスがある公園に戻ると先生から、
「班の全員が揃っていないと乗せられません」
 って言われて、友達とその女子を探すハメになって。
 もう時間は時間なわけだから、この公園のどこかにいるはずだって予想して、俺と友達はとにかく公園駆け回って四苦八苦。
 しかも本当のところはその怒った女子は既にバスの中にいて、他のクラスメイトたちは探し回る俺たちをバスから眺めて「いないのに探して」とバカにされていたらしくて。
 結局バスには置いていかれて、その時に、友達から、
「夢限がしっかり追いかければ良かったじゃん」
 とかグチグチ言われて喧嘩になって、結局友達ともそこから疎遠になって。それからもう友達を作ることさえも面倒になって一人でいる。
 あーぁ、嫌だ嫌だ、理路整然と思い出してしまった、天満真凛が俺に対して不機嫌な顔をするせいで。何だよそのデカい溜息。何でそんなもんを発するんだよ。俺の家の玄関の中まで入ってきて。こんなんイジメじゃん。もうどうしようもできない。やめろよ、その顔。そんな嫌な顔をするなよ。何だよもう。じゃあもういいよ。そんな顔をずっとされるんだったら、いっそのこと家に上げたほうがマシだよ。
「じゃあ、家、上がっていいけど」
 と俺が言った刹那、パァッと明るくなった天満真凛は、
「やったぁ! 初めて来る家のゲーム見るのめっちゃ好きぃっ!」
 そう言ってジャンピングガッツポーズをした。
 何なんだコイツは。まあ俺の家だからボコボコにされたりはしないから、まだ安心だけどもな。
 ちょうどこの時間帯は家族もいないし、何か言われる心配も無い。