・【放課後】


 あの後はじっと一人でコトバシレができて良かった。
 昼休みもなんとか通過して、授業を受けて、放課後になった。
 さて、帰って早くゲームでもするかと思ったところで、なんとアイツから話し掛けられたのだ。
「石破夢限くん、というか長いし夢限くんでいいよねっ、夢限くんって帰宅部で暇でしょ! じゃあ一緒にゲームしないっ?」
 天満真凛が何故俺に一日に二回も。というかゲームしないってどんなツツモタセ? 高校生でもうこんな罠があるの? どうせ家へついていったら、既に仲間たちが天満真凛の家にいて『本当に来たんだぁ』とか言われて、バカにされて、んでもってボコボコにされた挙句、財布の中身をとられて、散々な思いをするに決まっている。いや実際そんなイジメみたいなことをされたことは一度も無いけども、大体そういうもんだろう。
「いや、普通に、嫌だけども」
 と、ちょっとどもりながら言ってしまう俺のダサさたるや。マジで恥ずかしい。
 でもまあ断ったし、まあいいかと思っているんだけども、ずっと天満真凛が俺のあとをついてきている上に、
「コトバシレは特定の言葉が弱点のボスとかいるけどさ、かみの付く言葉とか全然浮かばないよね!」
 何かずっと喋ってらっしゃる。
「結局かみなりしか浮かばなくてさぁ、とは言え『な』と『り』の言葉を持ったキャラクターって少なくない?」
 『かみさま』とか『かみかみ』とか『おおかみ』とか結構あるけどな。
「ガチャのゲームも射幸心があって脳内が激アツになるけども、買い切り型のインテンドースイッチとかもいいよねぇ!」
 射幸心という言葉、高校生の会話で出ることあるんだ。いや会話はしていないけども。
「アタシはやっぱりモケットポンスターとブラスマかな、惑星のカーフィーもかなり好きだけどもね! グッズめっちゃ持ってる!」
 こっちがインテンドースイッチを持ってる前提で話してきている……いや持ってるけどさ。
「ゴメン! アタシばっかり喋っちゃって! 夢限くんが一番好きなゲームって何っ?」
 アタシばっかり喋っちゃって……? まるで会話しているような、一緒に帰っているようなことを言うな、この人は。
 でも何か隣に来て、めっちゃ目を輝かせてこっちを見てきている。
 何か言ったほうがさすがに良いんだろうな、でも何か新しい情報を言って『それなに?』ってなるのが怖いから、今まで天満真凛が言った単語から答えるか。
「モケットポンスターかな」
「分かる! 最高だよね!」
 分かられてしまった……いやまあそうなるか、同じ単語を選んで言ったんだから。
「モケポンってモケチュウばっか推されているけどさ、新作の御三家のモケニャコフがめちゃくちゃ可愛いよね! 立つな論争あったけども結局立ったらカッコイイんかいって!」
 立つな論争なんてネットミームを現実で喋るなよ、恥ずかしいだろ。
「モケポンの素人/玄人の2バージョンは革新的だったよね! 名前の通り難易度が全然違うなんてね! でもその分、そのバージョンにしかいないモケポンが玄人のほうが多くて! あれ賛否両論あったよねぇ!」
 あれはどちらかと言えば否のほうが多かっただろ、とか、言うことができない自分のヘタレ具合が本当に嫌になる。何でこんな憂鬱な気持ちをずっと抱かないといけないんだ。これも全て天満真凛がずっと俺についてきて喋ってくるせいだ。
「結局アタシは両方買っちゃったなぁ! 微妙にストーリーも違って両方買う勢は多分満足だったと思うんだよね!」
「あぁ、まあ、そう」
 とさすがに何か相槌を打たなきゃと思って、一回打つと、天満真凛が矢継ぎ早に、
「えっ? 両バージョン買った口っ? そうだよね! やっぱ両バージョン買うよね!」
 しまった、ここで相槌するのミスったかも。何かめっちゃゲーム好きみたいになってしまった。いや実際そうだし、両バージョン買ったんだけども。
 天満真凛はさっきまでよりも、さらに早口で、
「どっちのほうが好きだったっ? 勿論モケポン的には玄人のほうが選択肢多いからいいんだろうけどさ! ストーリーとしては素人のほうが泣けなかったっ?」
「えっと、まあ、滝沢がまさかあそこで出てくるとはって思ったけども」
 ともう喋るしかないので、長めにそう言うと、天満真凛は俺を指差しながら、
「それな!」
 と言って、陽キャって本当に『それな!』って言葉、対面で言うんだと思った。
 天満真凛は嬉しそうに、
「そうそう! やる気の無かった滝沢が最後助けに来るの何かめちゃくちゃエモかった! そのあと滝沢のファンアートめっちゃディグったし!」
 あういう、二次創作のファンアートを楽しみにしている人って本当にいるんだ、俺は公式派だから公式の供給以外反応しないようにしているから。
 そんな会話をしていると、俺の家の前までやって来ていた。